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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

予感は外れず



慎二に学校に来いと電話越しに言われたのが数十分前だ。断りたくても、数日前の言葉が頭をよぎる。行かないといけない。

今日は部活動生はいない。確か今日から部活禁止だった。生徒は全員帰宅しているだろうし、あの様子だと教師も去って行ったあとなのだろう。

誰もいないはずの学校について愕然とした。そう、一瞬間桐慎二に抱いていた怒りを忘れてしまったレベルに。たいした魔術師じゃない俺にだってわかる。校舎全体を覆うように結界が張られている。もう、完成してしまったのだ。やはりこれを設置したのは間桐慎二だろう。そして、一歩中に入ると、そこは明らかにいつもの学校とは違う世界。

さっきから妙な胸騒ぎが絶えない。今ここで、何かが起こっている。もしかしたら何処かのサーヴァントが奇襲しているのかもしれないし、ライダーと何かが戦っているのかもしれなくて。セイバーを連れてくれば良かったと悔やんだが後の祭りだ。サーヴァントを連れていく、という基本事項が頭から抜け落ちるほど慌てていたようだ。
過ぎてしまったことは仕方ない。足に力を入れて走り出す。頬を掠めていく風が気分の悪さを増幅させていく。
玄関から校舎に入り、一段飛ばしで上がって行く。上に行けば行くほど何かにのしかかられているような重圧が増していき、僅かに話し声が聞こえてきた。

「土御門?もう一度考え直せよ。僕とお前が組めば、聖杯戦争なんて」
「私はマスターじゃないって何度も言ってるでしょ。協力なんてしないよ」
「くそっ!どいつもこいつも僕の誘いを無視しやがって!」

話しているのは苛々している慎二と土御門のようだ。そう認識した途端、ぐらりと目眩がした。
危険だ、と。あの場で土御門が話し続けるのは駄目だと心の中で何かが叫んでいる。心臓の音が煩い。あと一階分とちょっと。三階のあいつらのところまで早くたどり着かなくてはならない。

「間桐くんはここで降りた方が良いよ。ろくに魔術も使えない人間が、化け物同士の戦いになんて参加しない方がよいし、かくいう私だって……」
「ああもう、もういい!おいライダー、命令だ!あいつを殺せ!」

落ち着き払った土御門のよく通る声が、どこか遠くの人間のものに聞こえた。
駄目だ。魔術師はサーヴァントに敵わないのだ。傷つく姿は見たくない。彼女が倒されるなんて、そんなのごめんだ。あと少し。あと少しで土御門の元に行けるのに。

「ごめんね、遠坂。貴女との約束、守れそうにないや……」

微かに聞こえてきた土御門の小さな懺悔が、その戦いの口火を切った。

「Codladh pairilis(煉獄)―――!」

魔術師の少女の、聞きなれない詠唱と共に空気が変わる。先ほどまでの気持ち悪い感じから、研ぎ澄まされた張り詰めた空間へと。
二階と三階のちょうど真ん中より少し上。凛とした土御門の横顔が確認できた瞬間。

「うわっ!」

あたり一面の窓ガラスが全部一斉に割れた。その、けたたましい音と共に、三階から爆風が吹いてきて腕で顔を庇う。何が起こっているのかさっぱりわからない。
土御門は無事なのか。聖杯戦争に関わるつもりのないあいつを巻き込むのは、絶対に嫌だったのに。

「土御門っ!」

叫ぶと同時に、ドンと腹に響くような二回目の轟音。びりびりと空気が震える。
頭の中が一気に冷えていく。なりふり構わず駆け上がりながらもう一度叫ぶ。だん、と勢いよく右足を三階の床につけた途端に。
まるでボールのように。宙に放り投げられたかのような軌道で身も服もボロボロになった土御門が目の前に転がってきた。真っ赤になった頬には擦り傷が。投げ出された足はぴくりとも動かず、所々が血に染まっている。

「なっ……!」

固まった。なす術もなく硬直した。この状況はなんだ。何故、彼女は転がっているのか。
直視するのは憚られた。信じたくない。何が起きている。

わかっていたはずだ。認識が甘かった。聖杯戦争を目撃してしまった一般人をも殺してしまうこの戦争で、この状態で、魔術師である彼女が攻撃されることは、慎二の家にいた時から予想できていたはずだった。
遠坂からの忠告が耳に入っていたとしても、土御門が巻き込まれることは確定事項だったのだろう。命を狙われる確率なんて考えるまでもない。

「土御門!大丈夫か、しっかりしろ!」

とにかく彼女を何とかしなければ。その一心で固まった四肢をどうにか動かす。傷口を刺激しないようにゆっくり抱き起こしても、土御門は目を開かない。でも、呼吸はしっかりしている。

「衛宮、くん?」

まだ生きている。そのまま立ち上がると、だらりと力なく彼女の両腕が下がった。酷い怪我だ。意識があるのが奇跡みたいな状態だ。なのに。なのに彼女は。

「―――Sruthán amach(爆炎)」

こんな至近距離でも聞き取れないくらい小さく、何事かを呟いて。

「……どうしてきてくれたの。わたし、諦められなくなるでしょ……」
「え?」

聞き返そうと顔を近づけた瞬間、爆音が轟いた。目の前が真っ白になる。比喩ではなく、眩いばかりの閃光が目を刺した。
何も考えることなく、土御門を庇いながら衝撃波に耐える。ごろごろと廊下を転がっていく。
どう考えても先ほどの比ではない。さっきのは音こそ凄かったものの、精々壁に罅が入る程度のもので、今のはこの階層を丸ごと震わせるような威力だった。


もうもうとした煙が漂う。周りは真っ白だ。だんだん目の前がはっきりしてきたらしい。起き上がる気力も無い。首を回して、ライダーと慎二がいたと思われる方向を見る。目を凝らす。何も無い。そこには何もなかった。間桐慎二の姿も、ライダーの姿も、ない。

「さいあく。逃がしちゃった」

もう大丈夫だと伝わるように、回した腕に力を込めた。
腕の中で、血に染まったシャツを強く握られた感覚がした。傷だらけの土御門が呟く声が頭を回る。
寝転がったまま動けない。
不意に目が合った。俺の名前を紡ぐ掠れた声が、今にも泣きそうで、土御門が壊れてしまったかのように錯覚した。


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