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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

理想の続きをみよう



散々俺の意識を引っ掻き回した後に遠坂が消え、一旦場の空気が落ち着いた。あくまでも落ち着いたのは雰囲気だけで、踏み荒らされた心の中はこれっぽっちも静まっちゃいないが。
今度こそと台所に向かい、お茶請けを用意しながら土御門に声を掛ける。

「土御門、いつもみたいに緑茶でいいか?」
「うん、お願いします。やっぱり本場の日本茶じゃあないとねー」
「喜んでるところ悪いが、言うほど上等な茶葉じゃないぞ」
「日本のってだけで充分だよ。全然違うんだからね?」

そういうもんなのか。俺は西洋の茶事情にさほど詳しくないからわからないが。
それほどまで言うなら、今度は奮発して少しだけグレードの高い茶葉でも買ってこようか。そう思ったが、足を伸ばしてリラックスした様子の土御門と目が合い、

「どうしたの?」
「いや、なんでもない」

胸が詰まって言葉を発せなかった。これほどまでに彼女に溺れているなんて堪ったもんじゃない。

◇ ◇ ◇

腰を落ち着けた先は土御門の横。茶を一杯飲んだ後、ぱきり、小さく音を立てて煎餅を一口齧った彼女に向かって疑問を投げかけた。

「そういえば、土御門はこれからどうするんだ?」
「え。これから、かぁ……」

イギリスからすぐ帰国して来たのだから、彼女はこっちで高校を卒業するつもりなのだろう。実際問題、転校手続きとか退学手続きをしていなかったのだからそれは確実である。
なら、その後は?以前のように拠点をイギリスに戻すのか、それともここ冬木でまた何かを始めるのか。彼女は雇われの魔術師だと言っていたが、これからどうするのだろうか。
ごく普通の選択肢として、就職したり大学に行ったりすることだってやろうと思えばできるだろう。彼女がそれを希望するかはともかく。

んー、と迷うように視線を彷徨わせたのち、土御門が湯呑みを置いてひとつ息をついた。

「あのね、これまだ遠坂にも言ってないんだけど。……衛宮くん笑わない?」
「笑うもんか。当たり前だろ」

比較することに大層な意味があるとは思っちゃいないが、遠坂より先に教えてくれる、そういうことだと理解すると頬が緩む。
そんな些細な事実にさえ不謹慎にも優越感を感じてしまう。

「何がしたいかなんて、今から決めちゃえばいいの。そうやって変わっていこうって思えたのは、きっと、君のおかげだから」
「?」
「やろうと思えば何だって出来る。そうでしょ?」

台詞の意図が見えなくて、行き着く先が見えなくて目を瞬かせる。

「衛宮くん、ずっと手を差し伸べてくれたから。今度は私の番かなって」

そう笑う彼女が、世界で一番綺麗だと思った。
何ら特別なことをした覚えはない。ただお前を失いたくなかった、それだけを思ってみっともなく足掻いただけなのに。土御門はいつも「助けてくれた」と嬉しそうに言ってくるものだから、こっちだって喜んでいいのかわからなくなる。
それに加えて、彼女の番って何のことだ。何かやって欲しいって頼んだだろうか。唯一思い当たる節は件の「早く帰って来てくれ」の本音だけで。実際、土御門はすぐに帰って来てくれた。そこに何ら問題はない。寧ろ舞い上がっている感情を制御するのでいっぱいいっぱいだ。
一体それはどういうことだ、理解する間も無く、置いてけぼりのままに時間は流れていく。

「ねえ、衛宮くんの夢ってなに?
今から、君は何して生きていきたい?」

ズバリと切り込む鋭い問いかけに、まさに今心の中を見透かされているような感覚に陥った。
有無を言わせず真剣な彼女に、何故そんなことを聞くのかと湧いた問いは発せず呑み込む。

「私は魔術師として生きていくつもりだったけど。……衛宮くんの隣にいることは許されますか」

私、衛宮くんの側にいたいよ。高校卒業して、その後も、ずっと。

「……っ、」

何言ってんだ。そんなの、言葉にするまでもない。
お前が何者であったって、どんな道を選んだって、絶対に手放したくなかったんだ。

「それこそ当たり前だろ……!」

控えめに笑った、そんな彼女を自分に染めてしまいたいと思った。
どうやったら理解してもらえるのか。俺はこんなにも土御門に振り回されて溺れて、一挙一動にさえ目が離せなくて一喜一憂しているのに。

触れても、抱きしめても、口にしたって伝わっていないのなら。嫌という程わかって自覚して、聞き飽きてしまうまで何度も何度も言葉にしてやる。どんなに時間が掛かろうとも、わかるまでずっと言い続けてやる。

「俺、半人前だし。まだ手探りでしか進めていないけど、」

きっと知らないだろうけど。土御門が思っているよりずっと、俺はお前に惚れ込んでいるのだろう。

「大好きだから。ずっと俺の側にいて欲しい」
「うん……えっ?それって、」

無意識のうちに頷いていたのか。一拍遅れて目を丸くする、じわりじわりと頬が赤くなっていく、そんな反応が彼女らしい。
言いかけた言葉は、俺の方に伸ばされかけた手を握りしめることで封じた。まだ伝え切ってないから、もう少しだけ時間が欲しい。

永遠なんて信じちゃいないから、せめて半永久的に最期までの時間を全て土御門にやってやる。だから、このまま離すことなくこの手を握っていたい。

「あのな、土御門。俺、ーーー」

家の居間で、座ったままで。ムードも何もなくて格好つかない場だけれども、そんなのどうだっていい。
手に入れたいと、そう思うことに間違いがないと教えてくれた君なら。きっと、何を言ったとしても笑わずに共に歩んでくれる。そう確信した。

「正義の味方に、なりたいんだ」

大好きなお前の生きる世界を、俺の願いを、共にいるこの時を。他の誰でもないお前を、一番近くで守っていけるように。

花が綻ぶように土御門が笑った。返事はそれだけで十分だ。
首に回された彼女の腕、隙間なくくっついた身体、躊躇うことなく背中に回せるこの距離は何にも代え難い。

やっぱり、これから未来の詳しいことなんて二人で一緒に考えていけばいい。時間ならたっぷりある。一分一秒一瞬を大事に積み重ねていって、そうして共に辿り着けたならば、もう……。

何よりも、この温もりと最後まで共に居ることができたのならば。

世界に、これ以上の幸せはきっとない。

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