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神は死んだ




「おい衛宮、僕と手を組まないか?」

望まずに聖杯戦争という死のゲームに参加することになったマスター同士、ここは協力しようと言う。確か遠坂が「生憎だけど、衛宮くんと協力することにしてるから」とか何とか言って慎二の誘いを断ったとか言っていたから、それで俺がマスターであると知ったんだろう。俺だって間桐家が魔術師の家系だったというのを知ったばかりなのだから。

話があるからと慎二に言われて久々に訪れた間桐邸は、記憶と寸分違わぬ様子だった。古めかしいソファに踏ん反り返って座る彼の隣には長い髪の女ーライダーが無表情で控えている。ここまでセイバーを連れてこなかったのは失敗だったかと一瞬後悔してから、それはないと自分で否定する。こんなことにセイバーを連れ出すのは申し訳ないし、みすみすサーヴァントを見せびらかすのは、いくら相手が慎二だといえども、得策だとは思えない。

さて、どう返答したものか。勿論遠坂と手を組んでいる身としてはこんな話、受ける訳にはいくまい。気持ちは決まっているのに言い出せないのは、それはきっときにかかることがあるからだ。

あいつ、何を考えている?

俺の表情をみれば、言わんとすることは薄々わかるだろうに、にやにやと勝ち誇ったような態度を慎二は崩さない。長年の経験が語っている、こんな状態の奴は相手にしない方が良い。さっさと断って帰ってしまおうと口を開いた途端、慎二は楽しそうに身を乗り出してきた。

「なぁ衛宮、良いことを教えてやろうか」
「……どうしたんだ、急に」
「爺から聞いたんだけど、僕たちのクラスの土御門牡丹ってさ」
「!」

息が詰まった。つい何日か前に俺を襲った違和感が思い出される。別にあいつは、聖杯戦争に何も関係ないだろ。今、名前が出てくるはずない。どくどくと高鳴る心臓が煩い。まるで心臓を鷲掴みされかけてるみたいな気分だ。
落ち着け。平常心、平常心。

「あいつがどうかしたのか?」
「あぁ、やっぱり衛宮は知らなかったか。土御門も魔術師なんだよ」
「な……!」

頭をガツンと殴られたような衝撃に襲われる。何を馬鹿なことを、とは言い返せなかった。この前彼女と話している時に感じた、刺すような冷たい雰囲気が蘇る。
遠坂だって、「もう1人学校に魔術師がいる」と言っていなかったか。本人の話を聞く限りでは慎二は魔術師ではないようだし、遠坂の言っていたもう1人の魔術師というのが土御門、そして没落しかけの魔術師の家系ってのが慎二のところということだったら納得がいく。
でも。廊下でぶつかったときの呆気にとられた顔とか。悪戯っ子のように笑った笑顔とかが、また頭に浮かんで。どうしても魔術師だと言われてもしっくりこない。否、本当は頭の何処かでわかっているのだけれど、どうしても認めたくない。認められない。何であいつが、あいつがこんなものに。

「土御門はマスターなのか?魔術師だからといってマスターであるとは限らないだろ」
「さあね。それはわからないさ」

これは口外に「手を組まなかったら土御門に手を出す」という意思表示だ。でも、だからといって彼女が魔術師、ましてやマスターであるという確たる証拠はない。
駄目だ。俺が何とかできる範疇を超えている。今ここで一人で考えてもどうにもならない。土御門がマスターであるかどうかがはっきりしないと。ぎゅっと拳を握りしめる。

「土御門は関係ないだろ、あいつには手を出すな」

それなら、俺が言えるのはこれだけだ。そりゃあマスターであるならば彼女が誰と何をしようが勝手だが、クラスメイトとして(現時点では)無関係な女子生徒に手を出すというのは許せない。白か黒かわからないからには、それを容認するわけにはいかない。たとえ、それが限りなくグレーなのだとしても。

「そう怖い顔するなよ衛宮、僕が言っているのはもしもの話さ。土御門が聖杯戦争の参加者だった時の話」
「そうか」

駄目だ。それでも駄目なんだ。名前のつけられない感情がぐるぐる頭の中を回る。
それでも、その提案を飲むわけにはいかない。まだあいつにだって、土御門がマスターであるかどうかはわかっていないのだ。流石にそこがわからないうちに実力行使には出ないだろう、と信じたい。
慎二に向かって、手を組むことは出来ないと告げて席を立った。あいつは深追いしてこない。ライダーも一歩たりとも動かない。全てが見透かされているみたいで気持ちが悪い。
じゃあな、と言葉を残して足早に間桐邸を立ち去った。敷地内から出てから全速力で駆ける。
何とも言い難い、いやな予感がする。早く遠坂に真実を聞かなくては。速く、もっと速く。頼むから動いてくれ。これ以上速くならない走るスピードが、今はただもどかしかった。

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