遠坂とバーサーカーを倒すまで手を組むことを決め、とりあえず結界をはったと思わしき学校にいるマスターを何とかしなくてはということで、屋上で作戦会議を開いている。 今は二月、勿論真冬だ。ものすごく寒い。 対して、遠坂はというと、寒さなど微塵も感じさせずに缶のホットコーヒーをちびちびと口に含んでいる(余談だがこれは俺が買ってきて遠坂に献上したものである。まさか、今度から紅茶にしろと注文をつけられるとは思わなかった)。話が話であるし、人目につかないことが第一条件なのは重々承知だが極寒の屋上はつらい。 「この学校には魔術師が3人いるわ」 「そ、そんなにいるのか?」 「ええ。そのうちの2人は私と士郎よ。もう1人は私の個人的な知り合い」 あともうひとつ、魔術師の家系の人間はいるらしい。先代で廃れてると遠坂は言うが、なんとも称し難い不安感が胸に残る。 遠坂も自分の言葉に確信は持っていないようだ。言葉を切って、難しい顔をして黙り込んだ。 「遠坂?」 「え……あぁ、ごめんなさい。……そうよね、大丈夫よ」 「他に誰かいるのか?」 「な、なんでもないの!気にしないで、士郎」 妙に歯切れが悪いのが気になるが、遠坂に深入りしない方が賢明だと今日までの短い時間で学んだ。 全く、俺が憧れていた学校のアイドルはどこに消えてしまったんだか。 遠坂が軽く咳払いをし、穏やかな空気は離散した。 学校に結界をはったマスターを探しだす算段を話し合わなければならないが、廃れた魔術師の家系っていうのも気になる。 何より。 コーヒーを飲みながら思案にふけっているらしい遠坂の顔を横目で盗み見る。もう1人、遠坂の知り合いの魔術師って誰なんだ。魔術師ならどう考えても俺より優秀であるだろうし、人目があるから学校にいる時に聖杯戦争に巻き込まれる心配はないはずだから、何も危惧することはない、が。わざわざ彼女が存在を明言した理由がわからない。 加えて、先ほどの遠坂の言い回しがひっかかる。その魔術師とやらが聖杯戦争に関わる気はなくとも、自分のテリトリー(つまりは自分の通っているこの学校)に他の魔術師が結界をはり巡らせているなんて知ったら。それこそ、正当防衛とばかりに妨害することだって考えられる。 そもそも、今この状態で学校が戦場にならない保証はない。遠坂のアーチャーだって霊体化して側に控えているだろう。もしその知り合いの魔術師がサーヴァントとばったり遭遇してしまったら?もしかしたらサーヴァントが魔術師を殺しにかかるかもしれない。いや、間違いなく殺しにかかる。いつかのランサーのように。そうなれば人間は手も足も出ないだろう。 聖杯戦争に参加していない立場の魔術師なんて、一般人よりも思いっきりグレーゾーンだと思うのは俺だけか。 「でも、あいつなら……」 遠坂の纏っている雰囲気と若干似たものをもっているあのクラスメイトとかだったら、案外、一人でなんとかしてしまいそうな気もする。 そこまで考えて苦笑いした。彼女が魔術師だなんて、妄想も甚だしい。 そもそも廊下でぶつかってこけてしまうような土御門が一人でサーヴァントと対峙するなんて、それこそ想像つかない。 何の冗談だ。今のはきっと気の迷いだろう。 それでも何かが引っかかる。遠坂が言ったあの言葉が頭の中から離れない。 胸に残るもやっとした懸念がなくならないままに、作戦会議はお開きとなった。結界の発動まで時間がある。今日は寄り道を控えて早く帰る方が良いだろう。 [*前] | [次#] [戻る] |