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色褪せぬ眼差し






ごくり、唾を呑んだ音が目の前の土御門にまで聞こえてしまっている気がする。

「土御門、どうしてここに」
「まさかとは思うけど、たった一人で教会に行こうなんて思ってなんかないよね?」

若干食い気味に放たれた言葉からは感情が読み取れなかった。怒っているのか、呆れているのか。逆光により土御門の表情すらもしっかりと確認できない。けれども、彼女の言葉は確実に的を得ていた。
ああ、思っていることは土御門に筒抜けなのか。不思議と、驚きよりも安堵が勝った。

「いや、そのつもりだった。何かマズかったか?」

きょとん。
拍子抜けしたように、無防備に視線を向けて来た瞳が、確かに心臓を射抜いた。
ちくしょう。こんな状況だってのに、どきりと高鳴る心臓が憎らしくてたまらない。

「サーヴァントを連れずに夜中出歩こうなんて馬鹿なこと、自殺行為だって理解してる?」
「あ……」

「衛宮くんの、ばーか」

どきり、首元にナイフを突きつけられたみたいだ。反則だ、そんなの。

恐らく、面と向かってでは初めてだ。真正面から発された鋭く甘い言葉は、たちまち白い息となり離散した。普段より幾分か力のない声が逆に心臓にきた。駄々をこねている子供のような、真っ直ぐこちらに向けられた小さな悪態は最短距離で感情を抉っていく。

「……土御門、」

言いかけた言葉はどこかに落ちていった。喉から出てきたのは音にならない吐息のみ。

目が離せなかった。左の目元から一筋だけ、透明な液体が伝う。すぐ側の街灯の光を反射した、暗闇でもはっきり見えたそれに、たちまち呼吸を止められた。重力によって、滑り落ちていくそれがスローモーションで残像を残していく。

ぽたりと地面に落ちた雫が涙だと気付くのに、一拍、間を要した。

生と死の狭間に立たされた時でさえも気丈に振る舞っていた彼女。感情の振れ幅は常人以下。女子高生らしさを被りながら、しかし誰よりも生粋の魔術師らしい立ち振る舞いだった、そんな土御門の等身大の表情に言葉をなくした。
本当はこんな表現は適切ではないと理解している。それでも、ただ、どうしようもなく綺麗だと思った。

「……あ、」

わたわたと慌てて、土御門がコートの袖で目元を拭った。今まで寒さなど忘れていた身体に、ぞくりと鳥肌が立つ。

ああ、駄目だ。
女の子は泣かせちゃいけないのに。



「私も行くから」
「え?」

右手が思いっきり引っ張られた。ぎゅう、と痛いくらいに触れ合った手の温度は二人とも同じくらいだ。いや、当たり前か。こんな寒い日に、手袋さえもせずに外にいたら冷たくもなる。
だけど、小さな両手に包み込まれた掌が、手の甲が、全てが熱い。確かめるかのように、逃がさないとでも言いたげに力の込められた指先の感覚が、頭をグラグラと揺さぶっている。
視線すらも逃げられない。顔と顔の間は十数センチくらいか。至近距離からこちらを見上げる土御門の目は僅かに潤んでいた。

「行かないで、なんて言ったって行くんでしょう?」

傷だらけの癖に。傷を負ったばっかの癖に、また自分から傷付きに行くんだね。

彼女の言葉の意味など痛いほどわかっていた。ただ、口には出さないだけで。

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