正直なところ、何をどうしたのかなんて鮮明には覚えちゃいない。 脳裏に刻みこまれたのは、 「……アーチャー……!」 地に伏したセイバーの背中と。 「っ、くっ……」 サーヴァントから片手間であしらわれた、遠坂のふらついた姿と。 「待ってて。見つけてみせます、必ず」 傷付き震えていた四肢を奮い立たせ、踵を返したサーヴァントを見据えて挑戦的な笑みを浮かべた土御門の横顔。 無謀だと嘲笑うだろうか。馬鹿なことを、と貶すだろうか。 でも、間違っちゃいないと確信していた。 ◇ ◇ ◇ 戦いというほど高尚なものじゃない。一見対等に戦っているようで、これは一方的な蹂躙に等しかった。ひとえに生き残れたのは相手サーヴァントの気まぐれが発動されたからである。 先のサーヴァントとの一戦でセイバーは負傷した。今はいわゆる魔力切れの状態だ。遠坂は遠坂で満身創痍とはいかないまでも、疲労困憊の状態である。土御門は言うまでもない。 それでも、誰も欠けることなくあのサーヴァントの手から逃れられたのは奇跡に近い。とは言っても、奴の気まぐれで生かされているようなものだとは承知している。 「結果オーライって感じだね」という土御門の言葉は言い得て妙だ。最も、その本人が一番傷だらけになっていたのだが。 遠坂と土御門と示し合わせたのは、今夜は休息に充てること。主戦力たるサーヴァント、セイバーがダウンしている。こちらから仕掛けることは勿論、迎撃することすら出来ない状態なのだ。俺たちの居所が知られているため、大きな動きを見せたら最後、残りのサーヴァントに攻め込まれるかもしれない。それは避けたい。 しかし。 「……っ」 気が付いたら、橋の目の前に立って居た。 行かなければならない。確かめることがある。 二月の寒空の下、ぶるりと身を縮こませ薄着で来てしまったことに漸く気が付いた。包帯をぐるぐると巻いているせいか、はたまた出血の影響か。気を抜くと、微睡みの中の如く意識がふわりふわりと曖昧となってしまう。 「何やってんだ、俺」 衛宮邸には戻れない。戻ってしまったら誰かに勘付かれてしまう。誰かを巻き込むわけにはいかない。 視線を向けた先に、黒い影があった。 こんな真夜中、しかも真冬並みの寒さの中で川沿いに来るなんてどうかしている。軽装で歩き回っている自分を棚に上げ、妙な趣味の奴も居たもんだと目を凝らしていると、その人影がぴょんと動いた。 すとん、軽い着地音。どうやら、その人は川沿いの柵に器用に腰掛けて居たらしい。未だ顔が確認できないその影法師は、一歩二歩とこちらに歩みを進めると、 「やっぱりね。来ると思ってたよ」 それは、今一番聞くはずのなかった声だった。 蛇に睨まれた蛙、教師に悪巧みが見つかってしまった悪ガキ。他に何と例えれば良いのか。 「ねえ。こんな時間に、一人で此処まで来て。何処に行くつもりなのかな、衛宮くん?」 [*前] | [次#] [戻る] |