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周り廻り回る



見知らぬ教会の前、彼女は振り向いて笑う。

「―――君が私のものになってくれるなら、私も君のものになってあげるよ。そういうことでしょ、ね?」

どういうことだ、そう問い詰める前にどんどん背中が遠くなっていき……。

「……っ!」

がばっと身を起こすと見慣れた自室の襖が目に入る。何だ、びっくりした。夢か。変な夢を見た。本当にアイツが行ってしまうかと思った。
暑くもないのに一粒の汗が頬を伝って落ちて、

―――あれ。あの女の子って誰だ。

そう思った時には何もかもをさっぱり忘れていた。

◇ ◇ ◇

「ん?」

冬の早朝は寒い。

今日は桜と一緒に歩いてやって来た。朝練のある部活せいだろうか、早足で学校に向かっていく生徒たちを何人か見かけた。弓道部である桜も例外なく朝練だ。とはいっても彼女の場合、自主的な練習ではあるのだが。
校門まで辿り着いて、ぼんやりと桜を見送ったあと、不意に違和感を覚えた。別段遅刻したわけでもなく、普段通りの時間に登校してきただけだ。

だがしかし、何かが違う。何かは明確でないが、学校の敷地内の雰囲気というか、空気が変わっていると言えば良いのか。

何となく違和感が拭えないのが気になって、軽くあたりを見回した。変わった様子は特にない。
数人のジャージ姿の部活動生。欠伸を噛み殺しながら歩く教師は顧問だろうか。それ以外には人影はない。

気になる。気になるがはっきりとはわからない。
まだまだ朝のHRまで時間もあるし、それまでに何かするべきことがある訳でもない。気がすむまで校舎の中を歩き回ってみようか。何かがわかるかもしれない。

軽く頭を振って校舎に向かって早足で進んでいくと、玄関の前付近で見覚えがある女子生徒たちが話し込んでいるのが見えた。
珍しいといえば珍しいのか。2人とも誰かとべったり仲良くするタイプじゃないから、目を見張ったと言えば良いのか。
彼女たちが誰かと話しているのを見たことがなかった訳ではないが、あまり見覚えのない組み合わせの3人組だったから目を引いたのかもしれない。

そこにいたのは、学校のマドンナと名高い遠坂凛に弓道部の主将美綴綾子、それに遠坂たちより少し背の低い、制服姿の女子生徒。
あれ、最後の子って、どこかで見覚えがあるような。足を止め、遠目から姿を眺めながら暫し考え込む。


あ、昨日廊下でぶつかってしまった女の子だ。同じクラスの土御門牡丹。ストレートの黒髪に黒縁メガネをかけた、あまり目立つことのないおとなしいクラスメイト。実際にクラスの男子の中で、あまり接点がないと嘆いている奴もいた。
いや、それは何となくわかる。俺とて、女子生徒によく向けられている彼女の満面の笑顔をこちらに向けてはくれまいかと思ったことがないわけではないのだ。男嫌いなのかなんなのかはわからないが、男子との交友関係が希薄である彼女は女子の集団の中で笑いあっていることが多いのだが。

でも、何か違和感が拭えない。何かが足りない。昨日の放課後の記憶を辿る。

「あれ。土御門、今日は眼鏡じゃないんだ?」
「あー、昨日男の子とぶつかって。その時に壊しちゃった」
「なるほど。じゃあ額の傷もその時につけたものってわけ。相変わらず鈍臭いのね」
「もう、遠坂も美綴も目敏いなー。別に、ちょうど隠れているんだからいいでしょ!」
「前髪あっても目立つわよ」
「え。わかんないかと思ったけど、やっぱり気になる?」
「この距離ですぐわかるくらいには」
「ま、誤魔化すのは諦めなさい」



「それじゃ、朝練あるからまた後で」そう言った美綴の声でふと我にかえった。

そんなつもりはなかったが、知らないうちに聞き入っていたらしい。三人に悪いことをした。

美綴は弓道場の方に歩いていく。今から弓道部の朝練だろう。
対して遠坂と土御門はそのまま校舎に入って行った。確か、どちらも部活には入っていなかったはずだ。
部活をやってない人間にはこの時間は早過ぎる。朝練が始まったか始まっていないかの時間だ。美綴はともかく、他の二人は意外な顔ぶれだった。朝に強いのか、はたまた何か用事があったのか。

昨日に引き続き、土御門の顔を見る機会が多いみたいだ。昨日のアクシデントを思い起こし、申し訳ない気持ちを抱えながら教室に向かう。

気持ちゆっくり階段を登っている際に気が付いた。
土御門を見て何か変だと思ったのは、何時もかけている眼鏡をかけていなかったからだ。
見慣れない、眼鏡を外した姿。今まではどちらかというと大人しい印象だったが。昨日や今日の姿は、何というか。

少し垢抜けたというか。目を惹きつけてやまないというか。
有り体に言えば、なんか、かわいいというか。

と、そこまで考えたところで思わず壁に頭を打ち付けた。
そうじゃない、違うだろ。昨日俺とぶつかったときにできたらしい額の傷の心配をするべきだ。

じわりと熱をもってきた顔を思い切り振って、人気のないところで頭を冷やすことに決めた。教室に向かう足を生徒会室の方向に変える。
今教室に行ってしまったら土御門と鉢合わせてしまうかもしれない。今の状態で土御門と会って、平常心でいられる自信は俺にはなかった。どうせなら教室から遠い方が良い。きっとHRの時間には頭も冷やされているだろうから。

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