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死せる者には永遠の誓いを





ここは城、だろうか。

意識がはっきりした時には、見たこともない城の、玄関らしき広い場所に立っていた。目の前にはイリヤスフィール、バーサーカーという最強の組み合わせ。縁起でもない。立っているだけで不安が拭えない。
そんなバーサーカー陣営を眼前にして、土御門と遠坂が互いを真っ直ぐに見据えていた。不敵な表情のイリヤスフィールも、何をいうともなく君臨しているバーサーカーも意に介することなく、彼女たちは目の前の魔術師を見つめている。

「私もここに残るよ。それが一番の最善策だから」
「駄目よ。ここはアーチャーに任せるわ」
「アインツベルン相手なら私が一番相性が良いってわかってるかな、遠坂」

どうやら、土御門がここで足止めするかどうかの話らしい。うん、そう言われると確かに土御門の思惑も一理ある。どう考えても、遠坂と土御門、俺では戦力に大きな違いがある。今まで普通に学校生活を送っていた人間よりは、魔術師として戦闘を生業にしている土御門の方が手慣れているのは当たり前。というか、そもそも遠坂の魔術は(本人曰く財政的な意味でも)戦闘に向いてないないらしい。遠坂のアーチャーと土御門が二人で残ることで、バーサーカー陣営に大損害を与えることは出来るだろう。俺は、そう思わせるほどの戦いぶりを、以前に土御門が「魔術師である若い女の人」と戦っているのを見たことが「あった」。あったはず、そんな気がする。でも、もう名前すら思い出すことは出来ない。
それでも、それが最善策かと言われると、そんなことは絶対に、ないと断言できる。聖杯戦争に関わるはずではなかった土御門が、ここに残らなければならない理由なんてないのだ。

「駄目に決まってるだろ、土御門を残すなんて」
「衛宮くんの意見は聞かないよ。こと魔術戦においては、私に分があるってわかってるかな?」
「う……」

ぴしゃり、と。さも決定事項のように押し付けられて、押し黙る。何か言わなければならないと、このままでは駄目だと頭ではわかっているのに口から言葉がでてこない。声にならない声しか絞り出せない。ぐっと喉元で言葉が止まるくらいの、土御門の有無を言わせない冷たい気迫に押されている。
ちらりと遠坂に目を向けても、あっちはあっちでアーチャーとの話もあるらしい。少し離れた所で会話を交わしていた。



「うん、でも。嬉しかったよ、そうやって言われて」

その声に反応して、ぱっと振り向くと。土御門は先ほどまでの厳しい顔つきから、一変して相好を崩していたものだから、もう何も言葉にすることができなかった。というか、今何を言っても土御門には届かないと確信してしまった。

ここに土御門をアーチャーと共に残すのは、結果的にあいつを見捨てて逃げるということであるのは理解しているのに、こんな時に限ってちゃんと頭が働かない。必死に頭を回転させても、意外と強情な土御門を説得させる方法は浮かばなかった。

「時間が無いわ。行くわよ士郎」
「遠坂!」
「ああもう!わかってる、わかってるわよ!でも、ああなったあの子は絶対に意見を曲げないわ。もう、私たちにはなす術がないのよ」

もう、逃げるしか方法はないと。俺たちが一刻も早くここから離れて、少しでも遠くここから逃げるしか、土御門のためにできることはない。そんな言葉が心に突き刺さる。
すぐ近くから聞こえてきた苦しげな声に、はっとして遠坂の顔を視界に入れる。いつも真っ直ぐだった瞳は揺れに揺れ、声はどこか震え、痛いくらいに唇は引き結ばれていて。それでも、遠坂の鋭い目線は、やんわりと微笑んでいる土御門に向けられていた。

「ほんっと、いつだってあの子は無茶ばかり。ちょっとは私を頼ってくれたって良いじゃない。じゃないと私、あの子に何も返せてない……」

その言葉を皮切りに、俺自身が「知らないはず」の情報が頭の中を浸食していく。
例えば、過去に遠坂がここ一番で失敗したことの埋め合わせ・フォローに土御門が度々帆走してたこと。
例えば、俺たちが学校でライダーやキャスターと対峙していた際、土御門は衛宮邸でラ―――出会っていたこと。それを俺たちに悟られないように振舞っていたこと。
例えば、土御門はずっと―――求めてきていたということ。―――はきっと、周りに深―――ないよう器用に立ち回―――も、本当は誰か―――て欲しかった。だ―――土御門―――し―――。
ノイズが走る。ずきりと頭痛が酷くなる。これは警告か。どうやら「踏み込んではいけない所まで踏み込んでしまった」らしい。視界が闇に包まれる。どくんどくんと血が廻る音が響く。神経を研ぎ澄ますことでじりじりとした痛みに耐える。
耐えろ。耐えなければ。後少しで大事な何かが判るはずなのに。


「シロウ、行きましょう」

セイバーからの進言にふと我に返る。気がつくと、遠坂とセイバーに引っ張られるようにしながら外に向かっている、そんな状態だった。抵抗する力もなく、二人に引きずられる体制のまま土御門を仰ぎ見る。
それなのに、こんな時でも土御門はいつものように、何でもないかのように笑っていた。微かに唇が動く。

「衛宮くん、信じてるよ」
「え?」
「うん、だから、ありがとう」

ああ、と。今迄ただの一度も見たことはなかった、ふわりとした、零れるようなとびっきりの笑顔を見て、納得したくないのに納得してしまった。土御門は自ら望んでイリヤスフィールに向かって行くのだと。俺たちを助けるためでもあるけれど、それ以上に、誰かと戦うということが土御門を生かすものであり、それだけが今まで、彼女を彼女たらしめるものだったのだと。
どうしてもっと早く気がつかなかった。早く気がつけば、戦うことは止められなくても、土御門が生きる意義はそんなものじゃないと言えたのに、もう、後悔しても遅すぎる。

「土御門……!!」

叫ぶ声はもう、届かない。もはや見えなくもなった。けど目に焼き付いて離れない。
存在すらも儚げであるような少女が、その最後に見せてくれたのは。
奇しくも「俺」が世界で一番守りたかった、あの笑顔だった。


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