×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

不可能不可避




セイバーの言っていた四階のサーヴァントとはキャスターだった。
周りの雑魚を一掃し、キャスターをも一刀のもとに切り捨てたあと、セイバーが、ほうと息をつく。

「これは。このキャスターは本体ではなかったということでしょう。こんなにも簡単にサーヴァントと決着がつく筈はありませんから」
「確かに。倒したにしては手応えが無さすぎる。でも、遠坂たちも結界の破壊に成功したみたいだし、ある程度は上手くいったんじゃないか?」
「そうですね。貴方も大きな怪我が無くて安心しました」

お互いの無事を確認し、ほっと一安心する。

早急に遠坂の元へ行かねばならない。手筈通りであれば大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。確か結界の起点は一階にあると言っていた。こちらの仕事が終わった以上、早く合流するのが最善だと判断し、セイバーに提案しようと顔をあげる。

「遠坂?」

荒い息をしながら、遠坂が階段を駆け上がってきた。視線がかち合うと同時に、凛とした声が耳に届いてくる。

「衛宮くん!サーヴァントは?」
「消えた。おそらくここに居た奴は分身だったんだ。セイバーが切り伏せただけで呆気なく消滅した」
「そう。わかってるとは思うけれど、結界は消えたわ。とにかく当初の目的は果たしたことだし、帰りながら話しましょう。早くここから離れた方が良さそうだし」

消えた、と言う割には遠坂の顔色は優れない。納得がいかないかのように眉を顰めている。理由は気になるが、ここを離れるのが先だ。セイバーを引き連れ、そそくさと学校から引き上げる。



学校から自宅までの道を歩きながら、遠坂の横顔を盗み見る。見た感じ怪我はない、戦闘した形跡もない。大事が無くて良かったと胸を撫で下ろしていると、その張本人がくるりとこちらを振り向いた。

「取り敢えずこっちであったこととを伝えとく。結界の起点には慎二が居たの。あとライダーも」
「慎二が?でも遠坂たちがここにいるってことは」
「ええ、ライダーは消滅した。でも、私たちが倒したんじゃない。彼女は他のサーヴァントに殺されていたのよ。この状況から考えると、恐らく衛宮くんたちが戦ったサーヴァントね」
「つまり、ライダーはキャスターに殺されたってことか」
「……四階のサーヴァントってキャスターだったんだ」

遠坂が瞬きをする。一瞬見えた驚いた素ぶりはすぐにかき消え、瞬時に真面目な顔に戻った。

「そう、私は何も手を出していないのよね。……あと慎二なんだけど。キャスターに殺されかけてたのよ」
「慎二が?」
「あとは綺礼に任せたし、何とか一命は取り留めたと思う」

一命は取り留めたという言葉に安堵する。ここで慎二が死んでいたら、桜に合わせる顔がない。
いや、助けられたかもしれないこの状況で、慎二を見捨ててしまったという結果になってしまっただけでも、やっぱり桜に申し訳ない。

「ちょっと衛宮くん。慎二を助けられなくて落ち込んでるわけじゃないでしょうね?」
「遠坂?」
「あいつが何をしようがあいつの勝手だし自己責任よ。衛宮くんが気に病むことなんかじゃないわ。……無関係だったあの子をわざわざ巻き込んだのは許せないけどね」

遠坂が苦々しい表情で唇を噛んだ。
確かに,聖杯戦争に関わらないはずの土御門を巻き込んだのは慎二だ。

やはり遠坂は遠坂だ。冷徹な魔術師としての態度もあれど、遠坂凛という人間としての感情も捨てきれていないことを感じ取り、何故だか心底ほっとした。

「今後の方針とか現場分析は明日にして、今日はもう休みましょう」
「そうだな。遠坂、送ろうか」
「アーチャーがいるから大丈夫よ。おやすみ、衛宮くん」

遠坂の言う通り、今日のところは疲れ果てた身体を休めることにした。遠坂の背中を見送り、セイバーと共に自宅へ向かう。


「土御門?」

玄関に藤ねえの靴がないということは大方土御門に言いくるめられて帰ったんだろう。
夜も更けている。土御門はもう寝ているはずだ。


にも関わらず、何故か嫌な予感がする。
不審に思いつつ居間まで向かう。
誰もいない。机の上に置きっぱなしの湯のみ、片付けられていない食器類がぽつんとあるだけだ。湯のみに入っているお茶は冷え切っているようだから、やはり随分前に藤ねえは帰ったのだろう。

「それにしても、食べっぱなしっていうのはいただけないな。セイバー、お茶でも飲むか?」
「いいえ、気持ちだけで結構です」

微笑むセイバーに返答しつつ、藤ねえの食いっぱなしの食器類の片付けをしようと腕捲りをした、その時。

木の軋んだような、妙な音が廊下から聞こえた。

「何か物音がしましたね」
「もしかしたら土蔵の中のガラクタが倒れたのかもしれない。俺が見てくる。悪いセイバー、食器を流し台まで持って行ってくれるか?その後は寝てしまって構わない」
「わかりました。サーヴァント等の気配もしないようですし、危険はないでしょう」

お疲れさまでした、シロウ。
セイバーの言葉に背中を押され、縁側の方に向かった。

土蔵の確認をした後、少しだけ土御門の様子も見ておきたい。女の子の部屋に行くのは憚られるが、少し戸を開けて確認するだけなら構わないだろうか。我ながら言い訳がましいとは思うが、容体が気になるから仕方がない。
彼女の体調がが良くなっていることを願いつつ、足取り軽く廊下を歩いた。

- 16 -


[*前] | [次#]
[戻る]