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背中を押すもの




「ごめんね。私が今晩間桐くんと学校で鉢合わせたのは手違いというか、偶々なんだ。衛宮くん、もしかして間桐くんに用事があったりした?」
「いや。ちょっと慎二に呼ばれてただけだ」

それってやっぱり用事があったんじゃないの?と問いかけてきた土御門に首を振る。俺はただ呼ばれただけだ、と。口が裂けても「土御門に手を出さないように言うつもりだった」なんて、格好悪過ぎて言えなかったんだ。



遠坂は怒らせない方が賢明だとこの数日間で学んだ。もう同じ失敗は繰り返すもんか。相変わらず怒りの沸点はわからないままなのだが、努力しないわけにはいかない。うん、精神的特大ダメージを喰らわないためにも。
だけど。

「じゃ、衛宮くん。早速学校に行くわよ」
「ちょっと待て。俺、そんなの聞いてないぞ」
「そうね、今初めて言ったもの」

寒空の下、遠坂の家の方向に行こうとした俺の首根っこを引っ掴んで学校の方に向かせ、当然でしょと胸を張る遠坂に軽く目眩を覚える。全く、何をしても絵になるんだな、こいつ。なんていうか、全然違和感がない。
って、いやいやいや、そうじゃなくて。取り敢えずそんな個人的感想はどうでも良くて。

読めない。話が全くもって読めない。訳がわからない。何言ってんだ遠坂は。セイバーに助けを求めようにも、遠坂の言葉に大きく頷いているものだから拍子抜けだ。わかってないのは俺だけか。

「大丈夫よ、藤村先生へのフォローは牡丹に頼んでおいたから」
「いや、遠坂。そういう問題じゃなくてだな」
「何よ。衛宮くんの話だと、学校の結界はまだ発動中でしょう?そんなのを放っておく気?」

一瞬にして息が詰まる。それは絶対に放っておけないし、それをこの瞬間まで忘れていた自分にも腹が立つ。
悪い、土御門。直ぐに帰宅する予定だったけど、どうやら寄り道で長くなりそうだ。きっと全ての事情を理解しているであろう土御門に、心の中で謝罪する。それだけで仕方なさそうに相好を崩す彼女がありありと、実にリアルに頭の中に浮かんでくるものだから、もう救いようがない。

こうして、いとも容易く遠坂に論破されたため、学校に急いで向かったのだが。

「どうやら、サーヴァントは四階に居るようですね」

学校に着いて、校舎を見上げながらもセイバーが淡々と事実を述べてくる。
一刻を争うとまでは言わないが、急ぐに越したことはない。土御門曰く、そもそも結界が発動したのは完全下校時刻が過ぎた後。確かに、この頃流行っている殺人事件の影響とかで生徒も教師も校舎に立ち入り禁止だと一成が言っていた。
この点だけは慎二に感謝しなくてはならない。おかげで生徒への被害は殆どないだろう。

いや。
考えてみれば、それはおかしい。だって遠坂は「人間の精気を吸い取ってサーヴァントを強化する」とか言ってなかったか。でもこれでは発動しただけで何にも役に立っていない。慎二だって馬鹿じゃないんだ、それくらいわかっている筈なんだが。

「おかしいわね。結界の起点は一階にある筈なんだけど」
「おかしいな、それじゃあ本末転倒じゃないか。結界を張る意味が全く無いぞ」

遠坂とぴったりタイミングが被った。セイバーがほんの一瞬だけ口元を綻ばせる。ちらりとこちらに視線を向けてきた遠坂に、衛宮くんから先にどうぞと急かされて、とにかく続けることにする。

「土御門から聞いたんだが、慎二がサーヴァントに結界を起動させたのは生徒が帰ってからだ。そんなの意味ないじゃないか。あっちの目的はサーヴァントの強化なんだろ?これじゃあ何も見込めない」
「そう。問題はそこにもあるのよ。てっきりあの子が慎二を挑発して、見当違いの時間に結界を発動させちゃったのか、もしくはただ慎二が間抜けだったか、って考えてたんだけど」

後者はあまり可能性はないだろう。慎二はそこまで考えなしじゃない。感情的になってサーヴァントに命じてしまった、というのが一番可能性は高い。
取り敢えず、これ以上詮索するのは無理だ。知っている事柄が少なすぎる。遠坂の言葉を大人しく聞くことにしよう。

「おかしいのよ。サーヴァントの気配は四階にあるんでしょ?でも、結界の起点は一階にあるの。別にセイバーを疑っているわけじゃないんだけどね、私だって魔術に関しては負けないわ。でも、慎二の性格上、重要な場所を外すなんて考えられない」
「つまり、ここにいるサーヴァントはライダーじゃない可能性が高いってことか?」
「そういうこと。形はともあれ、ライダーはあの子が撃退したんでしょ。慎二が直ぐにここに来るとは考えにくいの。ってことは他のサーヴァントしかいないってわけ。ああもう、面倒なことになって来たわね……」
「なあ遠坂、ここは二手に別れよう。俺たちの第一目標は結界の無効化だ。遠坂たちに結界の起点を任せて、俺たちがサーヴァントを叩く。アーチャーの傷が治っていないのならそれが一番最善だ。俺たちでも対処できるだろうし、遠坂たちが後から合流してくれれば助かる」

どうだろう、と恐る恐る様子を伺う。と、遠坂は何か変な物を見ているような驚愕の表情で固まっていた。いや、いくらなんでもその反応はないだろ。
固まった遠坂を見かねてなのか、少々不機嫌そうなアーチャーが実体化して主に声をかける。その際にこちらを睨まれたのは気のせいだと願いたい。

「まあ、この小僧が言っているのが気に食わんが、中々悪くない方針だ。凛、どうする」
「え、ええ。きっと、結界への対処は私じゃないと無理だし。セイバーならそうそう負けることもないでしょうし。うん、それで行きましょう」
「では、私とシロウが四階のサーヴァントと交戦する、ということでよろしいのですね?」

セイバーがこちらを見上げてくる。ああ勿論、と頷いてこちらも気合を入れた。こんなところで負けられない。なら、最善を尽くすだけだ。

「それじゃあ、そういうことで。こちらが片付いたら援護に行くから。幸運を祈ってるわ、士郎」
「ああ、遠坂も気を付けろよ」

遠坂からの力強い言葉に励まされ、行こうかとセイバーに声をかける。

校舎の中に入り、階段に足をかけると脳裏に蘇るのはつい数時間前の出来事で。
こんな時だってのに、頭にちらつくのはあいつの顔なんだから、もう本当に情けない。

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