×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

いとし、あいする




「土御門。おまえ、聖杯戦争に参加するのか」

土御門の食事がひと段落して。話はまた第五次聖杯戦争についてのものに戻る。
当初の遠坂の話だと、土御門は聖杯戦争に関わらずに過ごすつもりだったらしい。けど、ここまで来たら中途半端に介入してしまった、ということになるだろう。このまま彼女を一人にしておくのは危険だ。万が一、他のサーヴァントにでも見つかったら。
だからと言って教会に行くように勧めることはできなかった。言峰という名前を出した途端に、苦虫を噛み潰したような顔をしたことを思い出すと、そうする気にはならなかった。
土御門がこちらをじっと見つめる。傷だらけでも魔術師だとしても、やっぱり土御門は土御門だった。間髪入れずに即答される。

「少なくとも間桐くんのサーヴァントが消滅するまでは大人しくしていようかな。生憎、私は遠坂たちの陣営の人間だって思われてるみたいだし。それに」

ぴしゃりと言い放った後、言い辛そうに言葉を濁す。もごもごと何かを口にしたが、良く聞き取れなかった。
珍しい。土御門はお喋りな方ではなかったが、学校では自分の思ったことはきちんと言葉にするやつだった。その彼女が口ごもるということは、それほど口にしにくいことなのだろうか。

「それに?」
「なんでもない。サーヴァントがいない私じゃあ、ライダーに襲われても太刀打ち出来ないから。私としては、協力関係になってくれたら、嬉しいんだけど」

ちらり、と恐る恐るこちらに目を向けてくる。
俺にとってはそれが一番良い。土御門の知識とか技量とかを考えて共同戦線を組めば心強いというのもあるが、何より目の届く範囲に居てくれた方が、こちらも気にかけやすいのだ。というか、こちらとしては土御門を戦線に連れて行く気はさらさらない。
でも、離れた所に居て、もし巻き込まれたらと思うと、ぞっとする。
それが、結果として土御門を聖杯戦争に参加させるという、願いとは矛盾した考えだとしても。この手の届く範囲にいて、笑ってくれたら、と思うのだ。

「私もそれが最善だと思うわ」

遠坂はすぐに頷くと、さらりとこの提案を受け入れた。衛宮くんは?とでも言いたげな視線に促され、土御門を真っ直ぐに見据える。

「ああ、俺もその案に賛成だ。そうしてくれると助かる」
「わかったわ。ライダーを倒すまでね」
「うん。私、とりあえず大人しくしておくから」

土御門が視線を下げて謝罪の言葉を口にした。

「ごめんね、遠坂。私、約束守れなかった」
「気にしないで。そちらから手出ししなかったんでしょう。あっちが勝手に巻き込んできたんなら仕方ないわよ」

寧ろ、サーヴァントと交戦して、それでもその傷で済んで驚きだわ、という遠坂の声が響く。気落ちしたように俯く土御門、それを安堵したように穏やかに見つめる遠坂。そこだけ別世界になっているような錯覚を覚え、軽く頭を振る。これで良いんだ。良いんだ、きっと。間違っているはずない。


「あ、もうすぐ藤ねぇが帰ってくる」

しんみりした空気を破ったのは、何と無く時計を確認して思わず口に出してしまった、この言葉だった。

「藤村先生が?じゃあ私、ここに居ない方が良いんじゃ」
「あのな。何言ってんだ、その状態で動けるわけ、ないだろ」
「そうね。貴女、ここから離れて、どうやってこの屋敷を警備するつもりなのかしら?」

ばか。一体何のためにここまで運んできたんだと思っているんだ。
的外れな土御門の台詞に対して、遠坂と二人で畳み掛けた。正論を連続二回もぶつけられて、目を白黒させながら彼女は唸る。

「それ、は」
「本当は私の家に連れて帰るのが一番良いんだけど。おぶって連れて行くにしても、今晩はリスクが高いわ。とにかく絶対安静よ。特に、明日から動きたいのなら、今日は身体を動かすのは禁止。自分で気付いているのかは知らないけれど、打ち身が相当酷いんだから」

ぐっと喉を鳴らすが、土御門からは反論は無い。遠坂の言葉はすべて真実だ。
そりゃあもう、土御門の状態は酷い。立って歩くのは支えが無いと不安定で転けそうで、見ていられないレベルに。先程も布団から立ち上がった瞬間にふらついて、俺が慌てて身体を支えたのだから。
それに、なにより。遠坂の、この迫力で言われた忠告は、無視する方が難しいだろう。

「決定だな。で、遠坂は?」
「私は家に戻るわよ。もともとここに来たのも情報収集のつもりだったし。ここに居ようにも準備が不十分過ぎるわ。それで襲われたら話にならないもの」

そうか。それなら後の懸念人物は一人だけだ。勿論藤ねぇを除いて、だが。うん、土御門について藤ねぇへ説明する時には、とにかく遠坂に助けを乞おう。

「あとは……桜か。今日は珍しく遅いな」
「あ、桜は一週間くらいは来ないわよ。私がさっき言いくるめておいたから」
「そっか。それなら良いの。間桐家の面子とあまり対面したくないし」

その言葉に、ぴたりと思考が止まる。
聞きたいことは山程ある。何故遠坂が桜を説き伏せたのか、とかどうしてそれで土御門がほっとするのか、とか。彼女の言い方から予測するに、桜と面識があるわけではなさそうだから、嫌いというわけでは無いのだろう。他に理由があるのか。
でも、今聞くべきことはそれじゃない。あの言い方だと、まるで桜が聖杯戦争の関係者であるかのような。

「桜は魔術とは無縁なんじゃないのか?慎二がそう言っていたぞ」
「そうかな。私には妹さん、それなりの子に見えるけど。じゃないと、間桐が衛宮のテリトリーに入る意味が無いっていうか……」

テリトリーに、入る?最後の方の意味がわからなかった。というか小声でよく聞こえなかった。聞き返そうとするも、遠坂の顔色も悪くなっていることに気付く。この話を続けるのはまずい、と本能的に察知する。

とりあえずこの件は保留することにして、藤ねぇへの弁解の口裏合わせを始めることにした。優等生の遠坂が居るから何とかなるだろうとは思うが、念には念だ。この時間からだったら、あまり豪勢な夕食は作れないな、と思いつつ頭の中では土御門の言葉がぐるぐると繰り返されていた。

- 12 -


[*前] | [次#]
[戻る]