「土御門、聞いても良いか」 「うん。なあに」 「お前は一体何者なんだ?」 「―――あ、そっか。確かにそうだね」 土御門とはクラスメイトであり、別に顔も知らない仲というわけでも何でもない。この前だって教室で話したし、機会があったら世間話をするくらいの仲ではあるはずだ。 「何度考えても、しっくりくる言葉がないなぁ」 「え?」 「幻滅しないでね。私、本当にただの魔術師なの。ていうか、厳密に言うと魔術使いかな?」 「魔術使い?」 「うん。本当に、遠坂みたいにちゃんとした魔術師ではなくて。縁と運と成り行きで、ちょこっとだけ魔術を使えるようになっただけの、ただの一般人だよ」 遠坂曰く半人前に片足突っ込んだレベルの俺には、彼女の言わんとする「魔術使い」の正しい意味がわからない。 「信用なんかできないと思うけど、まあ一応よろしくね」 微笑みながら手を差し出されてぎこちなくなりながら握る。俺より小さい、暖かい手だった。 「でも俺、土御門のことを疑ってなんかいないぞ」 小さく息を漏らした。間髪入れずに顔が上げられた。まん丸と開かれた瞳が、途端に緩んでゆくのがわかった。 「そうか。……そうだね、衛宮くんは、そういうひとだね」 それは、やけに大人びたセリフだった。 困ったように暫く視線を彷徨わせた後。 きゅるるるるる、と誰かの腹が鳴った。 「衛宮くん、こちらのおうどんはもしかして頂いて良いのでしょうか」 何故そこまで畏まる。 「ああ、食っていいぞ。大したものじゃなくて悪いが……」 「ありがとう」 ふわりと笑った。穏やかに笑った顔を直視したのは初めてだったかもしれない。 いただきます、ときちんと手を合わせてから、土御門は箸を手に取った。 喜んでくれるならこちらも嬉しい。作った甲斐があったというものだ。 静かにうどんを口にする土御門を眺めながら、ふと以前より疑問に思っていたことをぶつけることに決めた。ゴタゴタしていて聞くに聞けなかったことだ。 「遠坂と土御門ってどういう関係なんだ?」 「顔馴染みってところじゃない?」 遠坂が入ってきた。 手には絆創膏を持っていた。土御門の傷を手当てするために戻ってきたようだ。残ってるのは顔の傷だけだし後からやれば良いか、と零して遠坂はどこからか持ってきたサンドイッチにかぶりつく。何やら台所でやっていたのは自分の食事を作っていたのか。 これから遠坂と俺の分も作ろうかと思っていた所だった。自分で調達したのなら良かった。俺の夕食は余った麺を茹でればすぐ用意できるだろう。もう一品増やしても良いかもしれない。うどんに舌鼓を打っている土御門にもう少し食わせてやりたいし、俺自身も結構腹が減っている。 「えー。なんで?仲良しの友達って言ってよ!」 「昔からの知り合いなのか?」 「中学校からの腐れ縁ってところ」 穏やかに言い放つ遠坂に向かって、土御門がわかりやすく拗ねた顔をした。 俺の知らない、年相応の顔だった。 [*前] | [次#] [戻る] |