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色々と消化不良のまま肝試し(ネタ集め)は終わってしまい、そのまま解散となった。堀と鹿島と私、この3人は電車通学、しかもその方向が一緒のため、必然的に帰り道も同じである。

「結局、野崎は何がしたかったんですかね?」
「さぁ……」

至極真っ当な鹿島の疑問だけれども、私たちではそれに答えを出すことはできないため、どっちともつかない微妙な返事を返す。あのグタグタの状況で漫画のネタになりそうなものがあったのかすら謎。ニコニコしながら満足そうに帰って行ったけど、何か得たものでもあったのかなぁ。
ふぅ、と意味のないため息を2人して吐きながら進む。折角の夏、折角の部活帰りなのに何とも表現しがたい脱力感。

「じゃあ、とっておきの怪談話してやろうか?延長戦だ」
「わあ、良いんですか?」

ニヤリと得意げに笑う堀に、水を得た魚のように元気注入される鹿島。
いやいやいやいや。やめようよ鹿島。確かに気分を変えたいとは思ったけど、今の提案はぜんっぜん要らなかったよ、堀!

少しばかり怖いのに耐性はあるけれども、演技力が並外れた堀が話すってことはつまり、非常に高確率で上手い怪談話になるって事で……そんなの全く耐えられる気がしないよ。暗い帰り道をどうやって帰れって言うの、もう!
私の頭の中の危険センサーのランプがこれ以上ないくらいに点滅している。堀と一緒に帰れないのは残念だけど、怪談話を聞くなんて無謀な事態は回避しなさいって全力で指示を出されている気がするのは、絶対絶対気のせいじゃない。楽しんでいるところに水を差すようで悪いけど、私は早々に退散させてもらうことにしよう。

「わ、私ちょっと遠慮しとこっかなー、なんて」
「ええっ?先輩も堀先輩の怪談、一緒に聞きましょうよー!」
「あの、さっきので一応満足したし、ね?」
「でも先輩、全然怖そうじゃなかったじゃないですか!夏ですよ、怪談で涼しくなりましょうよー!」

う。キラキラ笑顔の鹿島には弱いんだよ私。断るのとかすっごく苦手なのに!

「わ、わかったよぅ……ちょっとだけだよ?」

ああもう、参りました。降参。鹿島を振り切ることができず、雰囲気に流されるがまま、駅に着くまでという期限付きで参加することになってしまった。参加って言っても、堀の怪談話聞くだけだけど。
うぅ、絶対後から後悔するだろうなぁ、私。最寄駅についた後は1人で帰らなくちゃならないのに。このままで大丈夫なのか大変不安だよ……。

ーーー



反省。鹿島のキラキラ笑顔に安易に流されてしまった数分前の自分を張り倒したい。堀と一緒に帰れるとか浮かれてたなんて、私の大バカ者。

少なくとも後数ヶ月は怪談話を耳にしたくないくらいのダメージだった。何なの。想像以上に堀ってば怪談話上手かった。大方の怪談話なら大丈夫な自信があったんだけど、そういうの木っ端微塵に砕かれた。もう全身に鳥肌立ってるし、何だか後ろから誰かに見られてる気がしてきたし、静かな道に響く足音ですら恐怖感を煽る材料になっている。3人は一緒にいる今でさえこれだよ、堀たちと別れた後の帰り道どうしよう、1人で帰れる気がしない。

「〜〜〜っ!」

つい先ほどまで不敵に笑っていた、わりと怖いのに強そうな鹿島でさえ堀の腕に縋り付いて絶句している状態。こんなの聞いて平然としていられる人がいるなら見てみたいよ……。
その堀はというと、何故かニヤニヤしながら誰かに電話している。うぅ、今だけは堀の桁外れの演技力が恨めしいったら。気を緩めたらブルブル震える両手を必死に抑え込み、一歩一歩地面を踏み締めて歩く。

「長谷部?ぼーっとしてるぞ、大丈夫か?」
「え、ああ、うん。へーきへーき」

ぼーっとしているというか、自分の世界に篭っているだけというか!いえ、全然全くこれっぽっちも平気ではないけれども!
もうダメ。キャパシティオーバー。これ以上この場にいたら頭おかしくなっちゃいそう。というか、堀の顔見たらさっき聞いた話がフラッシュバックしちゃう。

「あの、えっと、やっぱり先帰るね!ごめんね!またね!」

言い逃げなんて卑怯かな。後で堀に謝らなくちゃいけないかも、でも余裕なんて微塵もない。これ以上怖くなるのは御免だよ。
とにかく一分一秒でも早く自宅に帰ろうと、取って付けたような笑顔を浮かべ、早口で挨拶し、全速力で駅まで走る。背中側から聞こえる堀の声には聞こえないふりして、今出せる全力のスピードで道路を駆け抜けた。





うん。駆け抜けた、所まではなんの問題もなかった。駅構内は明るかったし疎らではあるけれども人が居た。だから別に何を危惧することもなく過ごしていたのだけれど。最寄駅の改札を出て、入り口まで足を進めたところで立ち止まる。

「う、わ……暗い」

暗いだけなら普段の私には何も問題ない。背後に気を付けて早足に家まで進むだけだし、今までずーっとそうしてきた。
でも、今回ばかりは堪ったもんじゃない。数メートルおきにしかない街灯だけを頼りに一人で歩くのは、堀の怪談話を聞いたあとだと、精神的にダメージが大きいというか、端的に言ってしまえば怖くて一人で帰りたくないっていうか!
申し訳ないけど、親に迎えに来てもらうとか。でも今日は両親ともに遅番って言ってたし、家には誰もいないだろうし。どうしよう。あーあ、こういう時家近い人は良いよね、野崎とか徒歩通学だし。そもそも怖がりそうにもないけど。

ああでもない、こうでもないと暗い道を睨みながら頭を悩ませること数分。不審に思ったらしい駅員さんに声を掛けられたし、流石にこれ以上粘るのも難しいよね。電話かけたら怖さ半減するかな。
例えば千代とか……うーん、やっぱり怖がりなのかな。絶対一緒になって怖がる想像がつく、恐怖を助長しそうな御子柴は論外でしょ。頼みの綱の鹿島は精神的にやられてる真っ最中だろうし、だからと言って結月は逆に楽しみながら怖がらせてきそうだな。堀でも良いけど、もう声聞いただけでさっきの話がフラッシュバックしてきそうだからやめとこう……!
ってことは消去法で若松か野崎?取り敢えず野崎に電話してみて、ダメそうだったら若松にかけてみよう。


「あの、もしもし?野崎、今時間ある?」
「電話くらいなら問題ないですけど、先輩、どうかしましたか?」

おお、良かった繋がった。胸を撫で下ろしながら通学路に向かって歩き出す。

「じゃあ、あのね、暫くの間このままにしていて欲しいの」
「はい」
「いい?私が良いって言うまで、絶対に通話切ったりしないでね」
「はあ」
「駅から家に着くまでだから、ね?お願いだよー」

携帯電話の向こうで野崎が困惑しているのが手に取るようにわかる。ごめんね野崎、でも滅多に怖がりそうにない君は絶対適任だよ。

「先輩が焦っているのって珍しいですね。何かあったんですか?」
「いや、あの、さっき聞いた堀の怪談話が物凄く怖くって。お恥ずかしながら夜道を1人で歩くのは心細くて。うう、ごめんね」
「?でも先輩って怖がりでしたっけ?」
「寧ろ怖がりじゃないって思っていたんだけどね、もう色々と打ち砕かれたよ……」


偽物笑顔でピリオド


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