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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

「あれ?」

部活後、図書館に寄ってから帰ろうとしていると、目の前に見覚えのある3人の姿を見つけた。その3人とは野崎、鹿島、堀。このメンバーが一緒にいるのって珍しいかも。お取り込み中っぽいけれども、ちょっと興味が湧いたので声をかけてみる。

「ねえ、3人ともどしたの?」
「あ、先輩!」
「お、長谷部か。ちょうど良いところに」

そして、声をかけたことを直ぐに後悔した。

三者三様の反応が返ってきた。鹿島は目をキラキラさせているし、野崎も野崎で表情が普段の三割増しくらいに輝いているし、堀も心なしかホッとしたような顔だし。っていうか、ちょうど良いってどういうこと?もしかしてもしかすると、最悪なタイミングだったのかも、これ。嫌な予感が全身を駆け巡っているの、きっと気のせいなんかじゃない。
テンションが上がっているらしき野崎が普段からは考えられないくらい俊敏な動きでこっちに向かってくる。物凄い逃げたかったのだけれど避ける術もなく、ずいっと顔を近づけられた。気迫に押され、そろりそろりと後退りながら頭の中では大パニック。
いや、やる相手違うよ野崎、それ千代にやるべき行動だから!

「先輩!怖がる係やってみませんか?」
「……へ?」

あ、そうだった。野崎って考えの斜め上を行く人だった。今まさに私の表情は「目が点になった」って感じだと思う。ああ、ツッコミどころが多すぎて何から言って良いのかわからなくなってきた。えっ、怖がるのに係とかあるの?今って肝試しの最中だったの?仮に肝試しだとしても、何この怖がらなさそうなメンバー……。そもそも人選ミスってるよ、野崎。
だがしかし、喉元まで出かかっているのに、言葉は中々出てきてくれない。ああもう、もどかしい。

「あのな長谷部、実は……」

言いたいことが行ったり来たりで混乱状態にある私を見かねてか、苦笑した堀がこの状況を掻い摘んで説明してくれた。
つまり、野崎の言う怖がる係っていうのはマミコで、それをナチュラルかつ素敵に宥める(守る)のが鈴木くんってことで。成る程、妙に野崎のやる気があると思ったら漫画のネタ集めだからだったんだね。それなら私より適任がいると思うんだけどなぁ。御子柴とか御子柴とか御子柴とか。

「じゃあ、私がマミコ役なの?暗いだけじゃ全然怖くないよ?」
「じゃあ俺が怖がらせる係やりますので!」
「あ、それなら私は長谷部先輩をエスコートします!」
「いや、2人ともそういう問題じゃなくて……」

必死の反論は右から左、聞く耳すら持たない2年生コンビ。さらにさらに、当事者たる野崎はスキップしそうなくらい機嫌が良い。がっくりと肩を落としていると、諦めた方が良いぞと堀が軽く肩を叩く。うう、私の味方は堀だけだよ。ああ、もう声なんか掛けなければよかったよぅ……。


ーーー


私がマミコ役で行った肝試し(もどき)の結果、私が話したのは二言だけ。

「あの。野崎、後ろからこっそり肩を叩いても怖くないからね」

「……野崎、わざと物音立てても怖くないよ……」

開始から数分後。一向に盛り上がらないムードに自称怖がらせる係の野崎が力尽きたのか、4人で何をするともなく校内をぐるぐると歩くだけになった。皆の口数が少なくなり、シンとした校内の中、カツカツと足音だけが響き渡る。怖いというよりは……なんか、どんどん居た堪れなくなってきた。これって私が原因だったりするよね?困ったな。
苦し紛れの言い訳をすると、私はそこまで大袈裟に怖がるような性格ではない。怖い話でもお化け屋敷でも悲鳴を上げたり人にくっついたりするような行動をとる人間ではなくて、寧ろ逆に怖がりな人のフォローに回る側だったりする。だから、これもれっきとした野崎の人選ミスってことで。私は悪くないと思いたい、なーんて。
途中で鈴木くん役が堀と鹿島の間で行ったり来たりしたけれど、特に何かが変わるということはなくて。誰も怖がらない奇妙な雰囲気の中、意を決して声を上げる。

「や、やっぱり私じゃ演技力足りないっていうか、そもそも根本的に間違っているから、堀と鹿島でやった方が良いんじゃない?」
「いや、それは一応やってはみたんだが」
「そうなの?」

ええっ、それは大変面白そうなのを見逃しちゃった。演技力・安定感抜群の2人がやったら面白そうなのに。アンコールの期待を込めてじいっと堀の顔を見つめると、ふいと呆気なく目線はそらされる。あーあ、残念。

「それにしても、長谷部って意外と怖がりじゃねえんだな」
「よく言われるかも、それ」

因みに堀が言ったそのセリフ、高校入ってからでも聞き飽きるくらいには言われている。そんなに意外かなぁ、私が怖がりじゃないって。
まあでも、この校内一周ぐるり肝試しツアー(野崎命名らしい)は、演技で怖がることすら難しいくらい雰囲気ぶち壊しだったよ。千代とか御子柴がいれば違っただろうに。

うん、やっぱり人選ミスが全てだと思う、野崎。

非日常のプロローグ


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