飛び退くようにして堀から距離を取る。ごめんとかありがとうとか捲し立てるようにして言葉を並べ、そのまま元の距離に戻った。
ただのクラスメイトにしては近すぎるけど、友達以上の関係にしては遠すぎる、絶妙な距離。実際問題、私たちの距離は縮んでいるのか離れているのか、さっぱりだよ。もしかして、平行線のままだったりして。それすらもわからず、熱を持った頬っぺたを隠すようにしながら目的地に向かってひたすら足を進める。
置いて行かれないように早足で歩きながら、堀の横顔を少しだけ確認する。舞台で慣れているのか元々顔に出にくいのか、さっきと変わらない表情。
あれ。もしかして、こんなに慌ててるのって私の方だけ?ふっと湧いた疑問に呼応するように火照った身体がすーっと冷めていき、ふわふわしていた頭がすっきり静まっていく。
いつの間にか、堀の隣にいたはずが半歩後ろを歩いていた。
「長谷部?気分でも悪いのか?」
「うん、なんでもないよ……」
本当になんてことない。だって今のって、私が勝手に浮かれて勝手に落ち込んだ、それだけなんだから。うん、そう、たったそれだけ。
「長谷部?」
「はっ、はいっ!」
反応がない私を訝しんだのか、もう一度名前を呼ばれた。おーい、と目の前でひらひらと手を振られて、目があう。顔を覗き込んできている堀の顔が、数十センチ先にあった。
「人混みで疲れたか?」
「全然そんなことないよ!大丈夫!」
そうか、何かあったら言えよ、なんて言いながら。少し微笑み、私の肩を軽く二回叩く。
ああ、私ってば単純だなぁ。一挙一動で浮かれたり落ち込んだり。肩を叩かれただけで、低くなっていたテンションが跳ね上がった。
「あ、いた」
「ああ、あいつか。同じクラスの」
「そうそう。良かったぁ、見つかって」
小さい子供や学生で賑わう祭りの入り口付近。人混みで見にくいけど、確かに友人の姿を確認できた。淡い水色の浴衣、きっちりしっかり髪型もセットしてある。おおお、流石女子力高いなぁ。後で写メ撮らせてもらおう。
それじゃあ、合流の目処が立ったから堀とはここでお別れかぁ。
名残惜しいなんてそんなまさか。もうちょっと一緒にいたいなんて、そんなの、祭りの空気に当てられただけ。
「あのね。ちょっとだけだったけど、楽しかったよ」
「もうコケるんじゃねえぞ、長谷部」
1日に2度3度もコケませんよーだ。
またね、と手を振り、駆け足で堀の元から離れる。
ぎゅうぎゅうと締め付けられる胸、頬を叩く自分の髪の毛が鬱陶しい。砂利に足を取られ、時々つんのめりそうになりながらも、スマホ片手にこちらに手を振る友人の姿を追う。
絶対、ドキドキしてたなんて嘘だよ、別れちゃうのが寂しいなんて気のせいに決まってる。だけど、言い聞かせれば言い聞かせるほど意識はそちらに傾いていく。
王子様だけどクラスメイトで、唯のクラスメイトだけどやっぱり王子様で。時間とともに徐々に変わりゆく気持ちは、行き場を見失って彷徨い続け、自分ですら掴むことが出来ない。私は一体、この関係をどうしたいのかなぁ。
「おまたせー」
「おまたせ、はこっちのセリフ。遅れてゴメンね。今一緒にいたの、堀くん?」
「うん。さっきまで鹿島とか、結月とかいたよ」
中々やるじゃん堀くん、そう言った揶揄い混じりの小さな言葉は聞かなかったことにする。今何か言ったら墓穴を掘ってしまいそう。へえ、と含みのある表情でニヤつきながら、彼女が小突いてきた。とってもとっても嫌な予感がする。
次は何を言われるのやら、と咄嗟に身構えたけれども、予想に反して声音は真剣なもので。彼女の目が、びしっとこちらを射抜き、微動だに出来ない。
「お似合いだったよ、今」
「うん?」
「佳と堀くん。恋人同士みたいな感じで」
「……な、にを……」
何を言ってるの。そう反論しようにも、ショートした思考回路は仕事をしてくれなかった。
冗談交じりとか戯けてとか、そんなもんじゃなくて。びっくりするほど優しく微笑んで放たれた言葉に、ただただ声にならない声をあげるしかなかった。
加速し続けてる予感
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