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「#幼馴染」のBL小説を読む
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BGMが花火の音や祭りの喧騒、しかし会話は無い。そんな妙な空気を吹っ飛ばしたのは、堀の何てことのない話題だった。周りが騒がしいため、少々声を張り上げる。

「連絡来るまでってことは、別行動でもしてるのか?」
「え?あ、ううん、浴衣着たら電車逃しちゃったらしくて、混んでて時間がかかるって」
「あー、確かに。思ったより混んでるな、この辺も」
「うん。帰りの電車、人多くて暑苦しそう」

声が上ずったの、気づかれていませんように。不自然に片言になってしまった言葉は最早誤魔化しようがなく、何事も無かったかのように振る舞い、焼きそばを口に運ぶ。
心臓がばっくんばっくんで、焼きそばの味なんてわからない。無味無臭の食物を咀嚼しているみたいで気持ち悪い。頭の中を血がぐるぐる巡って、全身が揺さぶられているような感じで、心ここに在らず、みたいな。

「長谷部?」
「へ、あ、はいっ!」
「……電話鳴ってるぞ、大丈夫か?」
「あ、うんだいじょぶ!ちょっとごめんね!」

持ってきた巾着の中から、やっとの事で携帯を引っ張り出す。確かに鳴っている、私の携帯。こんな騒がしい中、よく私の着信音って気付いたなぁ。

堀に一言断ってから、下駄を引っ掛けてベンチを立ち、超高速で携帯を耳にあてる。着信は勿論、現在進行形で遅刻している件の友人だった。

「あ、佳?やっと着いたのよ、長かったーもう!今どこいる?」
「え?あー、結構奥の方。わかりにくいから迎えに行くよー」
「さんきゅー!じゃあ入り口で待っとくね。見つかんなかったら電話して?」
「はーい」

ホッと一息つく。
正直なところ、物凄く助かった。心臓はフルスロットルで稼働してるし、頭の中はぐっちゃぐちゃだし、もう自分が何をしているかわかんないし。それでも、ここで堀とさよならすることに、心の何処かでは残念がっていて。一体何をどうしたいのか、自分でも良くわからない。

電話を切り、ベンチに戻る。何をするともなく花火を眺めている案外逞しい背中を眺め、何とも言えない虚無感に苛まれながら、気持ちゆっくり声をかける。

「堀、友達来たみたいだから、入り口まで迎えに行くね」
「じゃ、そこまで送ってくぞ。その格好でコケたら危ねえしな」
「やだなー、流石にコケないよ。少女漫画じゃあるまいし」

軽口を叩きつつ立ち上がった堀が差し出した、綿あめや食べかけの焼きそばが入っている袋を受け取る。
そのまま歩き出した堀の隣に、早足で並んでから気付いた。あれ、今、雰囲気に流されてた。いつの間にか送ってくれることになっている。
私の心臓がもたないから遠慮したいところです、今更そんなことは言えず。ぎゅっと袋を握りしめ、そわそわと視線を彷徨わせながら歩く。まだ一緒に居られることに正直言うとほっとしてるし期待しちゃってるなんて、口が裂けても言えやしない。


気まずい沈黙の中、周りに目を向けながら歩いていると、射的の屋台の前の人ごみの中に見知った顔が見えた気がした。目を凝らして確認しながら、先に進む堀の服の端っこを小さく引っ張る。

「あ、ちょっと待って堀、今あっちに」

千代と野崎が見えた気がする。そう続けようとしたけど、言葉にならなかった。
慣れない下駄、砂利が敷き詰められていることによって不安定になっている足場。その上、余所見をして意識を別の物に向けていたことによって足が縺れた。

ぐらり、と体のバランスが崩れる。
コケてしまう、そう思った時には既に遅く。迫り来る痛みに備え、咄嗟に目を瞑った。

はず、だったのだけど。
どん、と思い切り何かにぶつかって、最悪の事態は免れた。

「ほら、言っただろ?コケるって」

耳元、息遣いすらもわかりそうな距離で、堀の声が響いた。何が起きたかわからないなんて、そんなことあるはずない。息を呑んだ1秒も満たない時間で事態を把握し、全身に電気のようなものが駆け巡る。これってもしかしなくても抱きついているとか抱き締めてもらっている体制というか……!羞恥やら何やらで体の芯から熱が出て、どうにも顔を上げられない。

「……お、おっしゃる通りです……」

蚊の鳴くような声でしか返事できない。最早期待を裏切らないくらいに、しっかりきっちり躓いてしまったこととか、想定外に近づきすぎてしまった距離とか、自分の間抜けさに顔から火が出そう。
加えて、しっかり掴まれている自分の腕とか、思いっきりぶつかってしまった堀の胸元とか、触れている場所に全神経を集中してしまう。
パニックで目の前がくるくる回る。どうしようどうしよう、私ってば何をやっているの。これから何をどうすれば良いのか思いつかず、内心悲鳴を上げていた。

君を迎えに行こうか


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