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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

簡潔に言ってしまうと、変人二人は堀と鹿島でした、まる。

一生懸命、誤解だと堀に説明されて、漸く今の事態を把握できた。堀は野崎のために(いつ使うかもわからない)祭り資料として写真を撮っていた。そこに現れた鹿島が丁度良いアングルだったから写真を撮っていた、らしい。うん、堀って結構野崎に尽くしてるよね。後輩想いの先輩、素晴らしいし見習いたい。



何をそんなに必死に言い訳してるんだろう、と思ってしまうような形相の堀の話が(あまり真剣に聞いてなかったけど)ひと段落したところで、今まで蚊帳の外だった鹿島が、ニコニコキラキラの笑顔で飛びついて来た。

「長谷部先輩、浴衣似合ってますね!」
「ありがと。でも残念だなぁ、堀も鹿島も浴衣着てないなんて」

鹿島も堀も似合うと思うんだけど。鹿島は何でも着こなしちゃいそうだし、堀も結構ぴったりだと思う。かっこいいだろうな、きっと。
でもやっぱり高校生にもなったら、男子は浴衣なんて着ないよねぇ流石に。どうせなら堀の浴衣姿とか見てみたかった。どうだろう、今度頼んだら着てくれるかな。演劇部の部室に男物の浴衣とか用意してないのか、今度鹿島に聞いてみよう。

「長谷部は誰と来たんだ?」
「友達だよ。まあ、まだ合流していないんだけどね」

そういう堀たちは恐らく演劇部の面子で来たのかなー。なんか仲良しで羨ましいよ。別に声楽部だって仲が悪いわけじゃ無いしむしろ仲良しなんだけど、みんなの予定が合わないからお出かけするの少ないんだよね。部活仲間とお祭りなんて、とっても高校生活を楽しんでる感が出ていて良いな。


時計を確認する。まだそんなに時間は経っていないから、友人が辿り着くのはもう少し先っぽい。時間的には、花火が打ち上げられる頃には到着するはずだけど、どうだろ。今頃は電車の中でやきもきしている頃じゃ無いかな、あの子お祭りとか大好きだから。

ぼーっとしてると、鹿島が大きく手を振ってるのが目に入った。視線の先を辿ってみると、少し遠くに結月の姿が見える。

「あれ、演劇部で来たんじゃなかったんだね」
「私は千代ちゃんと結月(せんせい)と来たんですよー」
「へえ、千代も来てるんだ」

結月と千代と鹿島の組み合わせ?あれ、この口振りだと野崎は来てないのかな。千代と野崎(とおまけに御子柴)っていっつもセットのイメージだから、一緒に来たのかなって思ってた。ううむ、千代は野崎の事誘いそうなイメージなのに。こういうイベント、取材と銘打ってそろってお出掛けする良いチャンスだし。

うーん、野崎ってあんまり一人でこういうイベントに来る印象ないような気がする。あれ、でも中学の時のバレンタインとかは若松連れて色々取材してたし、今日も寧ろ嬉々として祭りに来てたりして。御子柴とか野崎弟とか連れて資料探ししてそう……。

「私たちは花火がよく見える穴場に行ってきますけど、先輩たちはどうします?」

気がつくと、鹿島がこちらを覗き込んできていた。

へえ、穴場とかあるんだ、知らなかった。千代に会えるかもだし、結月もいるし、鹿島たちと一緒に行きたいのはやまやまだけど、私は先約がいるからな。まあ、まだ来てはいないのだけども。

「あ、ごめんね。私友達と待ち合わせしてるからここにいるね」

わかりましたーとちょっと眉を寄せる鹿島の姿に、罪悪感がほんの少し。流石演劇部とでも言うのか、一つ一つの表情とか立ち振る舞いが様になっていて、同性の私でもうっかりしてたらクラッといきかねない。危ない危ない。まだまだ慣れてないみたい。気をしっかり持たなきゃ。

「堀ちゃん先輩はどうします?」
「あー、俺も残るわ。連れとはぐれちまったしな」

あれ、堀って鹿島たちと一緒にまわるのかと思ってた。堀と鹿島もいっつもセットの印象が強いから違和感があるかも。部活時のインパクトのせいかもしれないけど、大概一緒にいるコンビだよね、あの二人。

鹿島たちが話し込んでいるすぐ横に空いてるベンチがあったので、そこに座って一息つく。慣れない下駄だったし、ちょっと疲れたかも。楽にするために下駄を脱いで、足をぶらぶらと揺らして休憩。あー歩き疲れた。全然距離的には大して歩いてないけど。
ドンドンドンとひっきりなしに上がり始めた花火に目をやりながら、そそくさと焼きそばに箸をつける。あ、そういえば、さっきのたこ焼きすっごく美味しかった。胃に余裕があったら帰りに買って帰ろっと。




と、食事に夢中になっているうちに鹿島たちは花火鑑賞の穴場とやらに行ってしまったらしい。綿あめなどの食料が入った袋を挟んで、堀が同じベンチに座る。
暫しお互いに黙って花火を眺めていたけれども。数分後、まだまだそれなりの量の食料が入っている私のビニール袋を覗き込み、堀が何とも言えない顔でこちらを向いた。

「長谷部、これ全部食うのか?」
「え、食べるよ?私の夕ご飯だもん」
「お前、意外と大食いなんだな……」

ノーコメント。肯定も否定も出来ない。沈黙は肯定と言うし、黙ったままでいるのは同意しているも同然なのかもしれないけど、コメントのしようがない。クラスメイトの男の子から大食いとか言われても嬉しくないし、だからと言って否定出来る訳でもないし。買った量が多すぎる自覚がないわけではないのだ。
何だかいたたまれなくなって、無理やり話題を変えようと、焼きそば用の割り箸を一旦置く。

「えっと、私は友達からの連絡待ちだけど、堀はここにいても大丈夫?連れとかは?」
「別にずっと一緒に回らなきゃいけねえわけでもないしな。長谷部の連れからの連絡来るまでここにいるぞ」

そんな気を使わなくたって良いのに。そういうとこ優しいな。気配り上手っていうの?それとも後輩みたいに世話を焼く対象だったりする?それはそれで納得いくものではないけど。
でも、一人でいるのよりは二人の方が楽しいし。堀となら尚更だし。そこまで考えたところで、さっきとはまた別の意味で言葉に詰まり堀から視線を逸らす。

「あの、ありがとね」

聞こえたかな。きちんと言ったつもりだった声は意外と掠れていて、花火の音にかき消される。
カモフラージュに焼きそばを箸でぐるぐるかき混ぜながら、横目でチラリと堀の方を盗み見ると、堀の表情が見たことないくらい柔らかくて、慌てて目線を戻した。

曖昧ハッピーエンド


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