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教室を飛び出したはいいものの、堀の行った先なんて今更わかるはずもない。つい先ほどに「わり、邪魔したな」とばつが悪そうに教室から去った堀の姿が目に浮かんで、じわりと視界が霞む。言葉をかけるもなくどこかに行っちゃうなんて狡い。待って、その一言が絞り出せなかった自分もばかみたい。
ねえ、どこ。どこにいるの。
勘違いされたままなんてやだよ。だって、私が好きなのは他の誰でもなく君なのに。

「ねえ、どこだってば……」

人っ子一人いない廊下に佇んで、すがるような思いでスマホを取り出して。お願いします、小さく呟いてもう一度電話をかける。無機質なコール音がしばらく続き、留守電のアナウンスが入ったところで耳からスマホを離した。

どこ行けば会えるんだろ、見当もつかない。息を切らして階段を駆け下り、靴箱までたどり着いたところで胸が苦しくなって、キツくて頭真っ白になって床に座り込む。制服が汚れちゃうかもなんて考えには至らなくて、少し埃のついてしまったスカートの裾をはたく元気すらない。
人から告白された後に他の人に告白することって狡い?断ったくせに、自分の想いだけは成就させたいみたな自分勝手な人間に思われて引かれちゃう?頭の中をぐるぐる回るネガティブな感情、整理出来ずに心に降り積もる。
もう自分の感情から逃げるのは止めるから。我儘言うのは今日だけにするから、今日で終わりにするから。それでも、この気持ちに蹴りを付けることも許されませんか。

「うー……」

下向いたら涙が出てきた。ぽたぽた落ちてく雫、制服のスカートに2、3個小さくシミができる。
やだな、どうしてこんなにも上手くいかないの。今日は朝からどこかズレっぱなし、もしかして厄日なのかな。じゃあ、今日はもう何もせずに帰った方がいいの?

ぼやけた視界、足元に落とした視線、変わらず差し込んでくる外の光、じりじりと頭皮が焼けてく感覚。

ああ、今日日焼け止めちゃんと塗ってないのに。でももう動きたくないや。

「長谷部?」
「へ……」

あんまりにもタイミング良すぎたから、一瞬幻かと思った。
今堀の声が降ってきた気がする。そんなことない、だって電話通じなかったし。今頃部活にでも行っているんじゃないの。恐る恐る足先から動かした視線は、男子生徒の制服のズボンと小奇麗な靴にぶつかった。何やってんだよお前、かけられた言葉の雰囲気は幾分か普段より優しいもの。

うそ。本物だ。どうして。
混乱しながら顔を上げたら、そこには肩を上下させてる堀がいた。じわり、鮮明だった姿がだんだんぼやけてく。

「なん、で……」
「何でってお前、コールバックしても出ねえし、どこ行ったかと思って探してたんだよ」

あ、サイレントマナーにしていたんだった。ポケットに入れてたスマホを取り出して確認すれば、まだかかったままの堀からの着信。気がつかなかった、小さく呟いたひとことを耳にして堀が乾いた笑いを零した。
ぐりぐりと照れ隠しのように些か乱暴に頭をなでられた後、幼い子に話しかけるように正面にしゃがむ姿はどうしようもなく待ち望んでいたものだ。

「アイツになんかされたのか?」
「……そんなことない」
「じゃあどうして泣いてんだ」

え、びっくりして思わず瞬きしたらぽろぽろ落ちてく雫。堀の手が掠めた頬がだんだんと熱をもっていく。
え、あ、まだ涙引っ込んでなかった。慌てて目元を制服の袖口でぬぐってももう遅く、覗き込んでくる顔が直視できなくてまた目を伏せた。

「長谷部?やっぱどこか悪いんじゃ」
「体調、悪くなんかない」
「どこか怪我でもしたか」
「転んでもないし頭も打ってない」
「……」

平行線をたどる問答、降りた沈黙、時々聞こえる部活動生の声。
思わず口をついて出たのは全く関係のない鹿島の話だった。

「鹿島、さっき校門から女の子たちと出てくの見たよ」
「は?」
「捕まえに行かなくていいの、部活じゃないの」

拗ねたような言い方になってしまったのは卑怯かもしれない。でもそんなのどうでも良かった。だってもう、今からどうすべきかってことすらわからなくてぐちゃぐちゃだ。
今日を最初からやり直せたらよかったのに。そしたらもっともっとうまくやって、こんな風に堀を困らせちゃうようなことにだってならなかったはずなのに。

あのなあ、呆れたような声に肩を揺らす。ぐっと固くした身体、小さく笑われたような気がした。

「今日部活休みだから鹿島も遊びに行ったんだろ」
「え」
「どこにも行かねえよ。こんな状態のお前を放って帰れるか。朝から様子変だったってのに」

それはきっと甘やかしすぎだよ。嬉しいから思ってても言わないし言えないけど。

素直に厚意に甘えることすらできない私じゃだめですか。堀の一番が欲しいと思ってしまう我儘な私はだめですか。ひとの好意に臆病な私じゃだめですか。

ねえ、私今度こそ勘違いしてしまうよ。
こんな私にこうして構ってくれる、君に期待してしまってもいいのかなあ。

「……あのね、あの」

正直現実を受け止められる自信なんてないし。
他の人の想いだって自分の感情だって、全部なんか抱えきれないけど。
今だけ。お願い、時間をください。勝手かもしれないけど、唐突なのかもしれないけど、言わないといけない気がした。

「やっぱり私、堀のこと好きだよ」
「え……」

後悔だけはしない。だって、きっと、1年の冬休みに堀のセリフを聞いた時からずっと、君のこと好きだったんだから。

お願い本気になって


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