×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



ドタバタと教室に入ってきたのは、中学の時から知っている他クラスの男の子。
けたたましい音を立てて落下したスマホ、二人の視線が一気にそちらに向く。ディスプレイに表示された堀の名前、5秒間ほどで着信は切れて画面が暗くなる。
不自然な沈黙、慌ててスマホを拾い上げる。結局、電話出られなかったな。着信履歴を見つめて少しだけ残念に思う。

一息ついてから端末の裏表を確認した。よかった画面割れてない。びっくりした。

「ええと……ごめん、長谷部。待った?」
「え。ああうん、平気!」

なんだ、知らないひとじゃなかったのには一安心。
ガラガラと大きな音を立ててドアが締められる。まるでここから逃げるなとでと言われているような心地だ。本音を言うと、窓から逃げられるのなら今すぐ逃げたい。この教室一階じゃないから無理だけど。
妙に静けさが際立つ人気のない教室、微かに聞こえるエアコンの稼働する音。黙ったままの状態から口火を切ったのは、私を呼び出した目の前の彼だった。

「あのさ、ごめんな。急に呼び出しちゃって、きっと吃驚しただろ」
「……うん」

教室にクーラーが効いてるはずなのに、じわり、首元に汗が滲む。

どうか私の勘違いでありますように、なんて余りにも自分勝手な願いは恐らく今更すぎる。このよそよそしい距離感だとか、微妙に緊張感の溢れる空気とか。何より手紙を貰った時から、ほぼ確信に近いくらいには察してた。これが何を示しているのかに見当がつかないほどのバカじゃない。少女漫画に良くいる、空気読めない天然さんじゃないんだから。

相手の緊張が伝わってくるほどここから逃げたい気持ちは加速して、言葉を聞きたくないと思えば思うほど耳はきちんと仕事する。

ああ、やっぱり私こういうの向いてない。そんでもって、ここまで来てこんなこと思うなんて最低だ。

「あの、俺、中学ん時からずっと長谷部のこと……」

どうしよう。耳を塞いで、これをなかった事にしたいよ。だって、私、どうしようもなく心掴まれて大好きな人がいるから。まだ何も伝えてないけど、そうやって好きだって言いたいひとがいるんだよ。私だって、自分の抱えてる想いでいっぱいいっぱいなんだ。
とても残酷で酷いことだとわかっているけれども、このまま全てを放り出して逃げ出したい。応えられない想いを真っ向から「好きになってくれてありがと」なんて受け止めきれるほど私はメンタル強くない。わかってしまうから、ここに至るまでにどれほどの勇気を振り絞って来たのかが。ココで何も言わせないまま突っぱねることができるほど度胸がある人間でもない。そんなこと出来っこない。

だから私が今為すべきことは、彼に対して精一杯今日向き合うことなのだろう。それがきっと、一生懸命に伝えてくれる彼へ最低限果たすべき責務だから。

身を硬くしたのと、ガラリと扉が開いたのと、目の前の男の子の口が動いたのはほぼ同時で。

「長谷部?探しーーー」
「好きでした。付き合ってください」

顔を上げて一番に目に入ったのは、肩越しに見えた堀の顔だった。

ヴィーナスの気紛れ


戻る