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話があります。今日放課後4時30分に長谷部さんのクラスの教室に来てください。

って、これ。

「え……」

もしかしてもしかしなくてもラブレターとかいうやつじゃないでしょうか。私の下駄箱に入ってたんだよねこれ、っていうかちゃんと長谷部さんって書いてるから間違いでもなさそうだし。
気が動転して一度読んだだけじゃ頭の中に入ってこなくて、二度三度食い入るように読み返す。うん。間違いなく私宛の手紙だ。だってこの学年に長谷部って苗字の女子は私だけだし、流石に相手も好きな女の子の学年を間違えて覚えてることはない、と思いたい。
メールとかメッセージアプリが主流の今、わざわざ手書きの手紙を、しかも靴箱に入れるなんてロマンチック?古風?なことする男の子いるんだ、じゃなくて!

「えぇ……」

差出人不明。いや、そこは苗字だけでも書いとこうフェアじゃないよ。だって、誰から届いたかわかんない手紙ってちょっと怖い。
でも、名前書くのが緊張するっていうか、臆してしまう気持ちもわからないでもないからまた何とも言えない。

いや、まだ告白だと決まったわけではないし。それこそ話があるだけかもしれないし。
なんて、ちょっと現実逃避をしてみるけど、そもそも唯の話なら教室に来てもらうかメールとかで済む話。わざわざ手紙を書く必要もない。そんなのわかってる。

何より、この独特の感じや何とも言えないこの雰囲気、こういうのを告白と結びつけられないほど私は鈍感ってわけでもない。

「あー……、うぅ……」

誰かに見られないように、そそくさと手紙を鞄の中に仕舞い込む。大丈夫、朝早いからまだ誰かには見られてないはず。
常日頃から周囲を過度に気にするようなタイプではないけれども、こういう時は周りの視線が必要以上に気になると言いますか。自分の背後を確認し、深く深く息を吐く。
まだ1日が始まったばかりだというのに、どっと肩に疲労感からくる重み。帰りたい。切実に。今すぐ家にとんぼ返りしてベッドに潜り込んで今朝の出来事を全部記憶から消去したい。自意識過剰って言われても仕方ないかもしれないけど、だって気になるものは気になるんだもん。
それに、告白されることに慣れてると言えるほどモテる女なんかじゃないし、だからといって告白されて舞い上がるほど頭がお花畑なわけでもない。告白される数をステータスだと思うとかそんな失礼なこと考えるわけでもないし。
ただ、誰かから向けられる恋愛的な好意に慣れてないだけで。言い訳じみてるけど、そういう自覚がある分まだマシというか二次災害を起こす人にはならないようにしてるというか。
自分から向ける好意は平気だし表に出せるのに、それを受ける側になると怖気付くとか自分勝手にもほどがあるってわかってはいる、理解はしてるけど心はついてこないだけ。

だって別に彼氏がほしくないわけじゃないし。好きな人だって人並みにいるし。告白されたことだってないわけじゃない。けど。

「慣れないなぁ、こういうの」

◇ ◇ ◇

朝からグッタリしてるのを隠せてなかったらしい。それはそうだろうな、私そんな器用に隠し事できるようなタイプではないから。友人には朝一番に「あんた本当変だよ何かあった?」なんてどストレートに聞かれたし、隣の堀にだって休み時間ごとに「長谷部、お前大丈夫か?どっか悪いならちゃんと言えよ」と結構真剣なトーンで心配された。流石に告白されるだろうから動揺してる、なんて馬鹿正直には言わなかったけれど。体育がなかったのが不幸中の幸いかな。多分今日運動とかしたら怪我するかぶっ倒れちゃいそう。


朝からずっと授業そっちのけで放課後来るなと念じていたけれど、時間が止まるはずもなく。無慈悲にも授業も帰りのHRも終わってしまった。こんなにも授業終わらないで欲しいと思ったのは人生で初めてかもしれない。

「いいか?長谷部、無理だけはすんなよ」と念押しするように何度も口にした堀は、何とも言えない顔をしながら後ろ髪を引かれるように教室を出て行った。部活に向かっていったのかな。そんな心配しなくても。正直なところ嬉しいけど過保護というかなんというか。私は堀の妹か、そんなことを思いながら背中を見送る。

「佳、今日部活どうする?休む?」
「平気だよ、体調悪いわけじゃないから心配しないで。ちょっと用事あるからそれ済んだら行くよ」
「そ?無理そうなら帰ってもいいからさ、そん時は遠慮せずに連絡してよね」

そんじゃ先行く、と友人が鞄を持って去って行く。
待って行かないで、そう言いかけた口は噤んだ。だって彼女は部長だし。今日は練習あるし部活に遅れさせるわけにはいかないから。放課後にこんな個人的な事情に巻き込むわけにはいかないし。

あ。良く良く考えたら昼休みかどっかの休憩時間に相談すれば良かったのか。どうしてそれを今朝思いつかなかったのかな私のバカ!

自己嫌悪するも今更どうしようもない。
それに、手紙で指定された約束の時間まで10分くらいあるし。気が付いたら教室に残ってるのは私ひとりだし。うう、居心地が悪いったらありゃしない。この浮ついたというか、落ち着かない微妙な感情を持て余したまま10分も待てなんてそんな心臓に悪い。でも、下手に何処かに行って入れ違いになったら嫌だし。この気まずさを先送りにするなんてそんなのやだ。どうせなら今日決着をつけないと考えすぎで夜寝れなくなっちゃう。ずるずる引きずりたくはないから。

ふう、小さく溜息をついた。誰も居ない教室に響くのは私の声と足音とここから生じる物音だけ。ゆっくり自分の席に座り、頬杖をついて窓の外を眺める。

お、野球部とサッカー部がアップし始めた。今日暑いのにすごいな、熱中症になりそう。

あ、鹿島が女の子の大群を連れて校門から出てった。どこ行くんだろ、駅前の新しく出来たカフェとかかなぁ。羨ましい。
あれ、でも今日練習じゃないの?もしかしていつものようにサボってるのか。今日も連れ戻さないといけない堀は大変だなぁ。

「……っ、わ!?」

ヴヴヴ、机の上に無造作に置いていたスマホのバイヴの音に飛び上がった。ガタン、大きな音を立てて椅子が倒れ、その音にさらにビクリと肩を揺らした。何だってんだもう、今日ほんとに調子悪い。
心臓がばくばく言ってる。やめてよ今日すごい人生で一番繊細なんだから驚かさないで。誰に言うともなく文句を口に出し、おずおずとディスプレイを見ると『堀政行』と表示されていた。

「堀?どうしたんだろ」

何か用事あったっけ。少しだけどきどきしながら、いつもの調子で指をスライドさせて電話に出ようとしたところで、

「待たせてごめん、長谷部!」
「……っわぁっ!?」

急に声を掛けられ、右手からスマホが滑り落ちた。

言いたい、云えない


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