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「#幼馴染」のBL小説を読む
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テスト勉強、教室で居残りする鈴木くんとマミコ。前日夜更かししたために眠気に襲われたマミコがうとうとして、気が付いたら鈴木くんに膝枕してもらってた、なんて……。

飲んでた野菜ジュースが口から飛び出るかと思った。ゴクリ、空気ごと液体を飲み込んじゃってむせる。ごほごほと咳込み、ページをめくる手が止まった。なにこれなにこれ。待ってこれ今月号のこのネタってもしや。

「の、野崎のばか……!」
「どうしたのよ佳、別ロマ握りしめたりなんかして」
「ごめん、私野崎のとこ行ってくる!」
「あ、うん。いってらっしゃい」

頭大丈夫?と失礼極まりない質問を口にした友人を無視し、とりあえず向かうは野崎の教室。「どうしたんですか先輩、野崎なら佐倉と一緒に中庭だと思うんすけど」とか言う野崎のクラスメイトへの返答もそこそこに、廊下を駆け抜け階段を猛スピードで降りていく。廊下を走るなとの注意喚起のポスターが目に入るけれど、今はそんなの守ってられない。息を切らしながら中庭に突撃したところで、

「の、ざき……!」
「先輩?」
「あ、佳先輩こんにちは!」

二人仲良く並んで昼ご飯を食べている最中だったらしい。ごめんね千代、いつもだったら二人の邪魔なんかしないんだけど、今日ばかりは私の身を優先させるね何たって全国的に晒されてるんだから!心の中で千代に平謝りしつつ野崎に歩み寄る。

「この前の膝枕!漫画のネタにしたでしょ……!」
「わわ、先輩落ち着いてください!野崎くんの首締まってます!」

幸運なことに(?)ベンチに座っていた野崎の首元を掴み、前後に揺する。ガクガクと脳がシャッフルされそうな野崎を見かねて千代が止めてくるけどこれはアレだから、先輩の当然の権利だから何言ってるのか自分でもわかんないけど。

「おかしいよ!ねえ!膝枕!普通女の子の膝枕だよね世間一般的に!」
「そこが不満だったんですか!?」
「そうだけどそうじゃないいぃ!」

言いたいのは、これ以上私をネタにして全国の女の子に晒すのやめてっていうそれだけなの!だってほんと何が悲しくて忘れたい(けどもったいなくて忘れられないっていうジレンマがある)過去を漫画にされなくちゃいけないの。

疲れた。なんかテンションも上がってしまったし野崎の頭をシェイクするのにも体力使い過ぎた。はあはあと肩で大きく呼吸をし、息が整うのを待つ。

「ありがとうございます先輩、お陰で剣さんや読者からも評判が良くて!」
「だから!そういう問題じゃなーい!」

心なしか野崎の表情が生き生きしてる。後輩が嬉しそうなのは良いことだけど。いやでもこれはちょっとばかし譲れない。
だって一度目ならともかく、ネタにされるの二度目なんだから!もう王子様ネタで懲り懲りだってのに!もう!

「でも佳先輩、気持ちよさそうに寝てましたよね……!」
「うぅ、千代まで私のこと虐めてくる……」
「あわわ、ごめんなさい!そんなつもりじゃなくて。ただ堀先輩に頼まれた野崎くんが佳先輩の寝顔を写真に撮、」
「へ?」

今、聞き捨てならないことが発覚したような気がする。
しまった、そんな顔して口を手で押さえる千代は女子から見ても可愛い。じゃ、なくて!

「野崎、どういう事か教えてくれる?ていうか今まで散々人のことネタにしてくれてるからこれくらいは教えてくれるよね……!?」
「『レアだから写真撮ってくれ』って頼まれたので、堀先輩のスマホで撮りました」
「ばかーーー!」

思わず頭を抱えた。いくら堀がお世話になってる先輩だからってそんな事までしなくてもいいんだよ野崎!ていうか堀も何てことを後輩に頼んでるの!ああもう、肖像権の侵害行為だ。うぅ、穴があったら入りたい。それよりやっぱタイムスリップして呑気に寝てたあの時の私に喝入れたい。

「……あのですね、佳先輩」
「ん?」

とんとん、軽く肩を叩かれて顔を上げる。
背伸びして内緒話するみたいに顔を寄せてくる千代のなんと愛らしいことか。やっぱり千代は妹にしても合うだろうな、と思って少しだけ屈んで、

「膝枕してる時とかの堀先輩、今までに見たことないくらい優しくって、」

なんかふたりが付き合ってるみたいでした。幼い響きの残る甘い声が、くらりくらりと頭を侵食した。

◇ ◇ ◇

「あ、おかえり。結局何だったのよ」
「恥ずかしくて死にたい……きっと私は全国の女の子にバカにされる運命なんだ……」
「はぁ?そんなスケールの大きい話だったの?」

頭大丈夫?と二度目の失礼な台詞だって噛み付く気力すらない。崩れ落ちるように自分の席に座り、今月号の別ロマを枕に寝る体勢に入る。

ガタン、隣の椅子が動いた気配がする。「あ、堀ちゃんおかえりー」との友人の声から、堀が教室に戻ってきたのがわかった。
漫画のネタにされたことに関しては私の自業自得だけど、でも写真撮ったのは絶対絶対堀が悪いんだから。
……なんて直接言えるはずもなく。というよりは今更こんな恥ずかしい話を蒸し返したくないというのが本音なのだけれど、とにかく堀にどんな表情して話しかければ良いのかわかんなくて。顔を上げられずに伏せたままため息をつく。

「長谷部最近ずっと寝てるよな、寝不足か?」
「隙を見せないように、安全なところで寝られるときに寝溜めしておこうと思って」
「は?」

なんだそれ、呆れたような困ったような声だって好きなんだからもうお手上げ状態だよ。

「あと堀のスマホのデータが吹っ飛ぶように祈っておくから」
「……何物騒なこと言ってんだお前、具合でも悪いのか?」

具合は悪くない、呟いた声は思いっきり掠れてしまっていた。
無理はするなよ、その声とともに頭にポンと触れたあたたかさがいつまでも残れば良いのに。

真っ白でも嘘みたい


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