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たまたま、お手洗いか何かで堀が席を立った後。このタイミングでよからぬこと(偏見)を思いついたのか、野崎が瞳を輝かせた。
……嫌な予感がする。

「じゃあ佐倉、なんか少女漫画っぽい話をしてみてくれ」
「あの、」
「ええっ!?し、少女漫画っぽい話題かぁ……」

結構長い付き合いだし、野崎の突然の無茶振りには慣れている。それも、応える方ではなく主にスルーする方向で。例に漏れず今回も話を逸らそうと口を開けたけれど。
健気にリクエストに応えようと頑張って頭を働かせている千代を見て口を噤んだ。この空気に茶々を入れるわけにはいかない。

「え、えーっと……あの、佳先輩。もし私たちが家族だったらどんな感じだと思います?」
「ええ?そうだなぁ……」

疑似家族設定を考える、それって少女漫画っぽいのかな……?頭の中に疑問を浮かべつつも必死に頭をフル回転している千代を見たらそんなことは言えず。なんだかんだで私もこの空気に乗せられる羽目になる。
ううん……。こういうのあんまり考えなことなかったな。でも、千代と御子柴・若松は結構イメージしやすいよね。面白みがないと言って仕舞えばそれまでだけど、ここはオーソドックスに。

「千代はやっぱり妹かな。たぶん、色々世話焼きたくなっちゃうし」
「ほうほう」
「で、御子柴と若松はお兄ちゃんね。御子柴は妹の立場から揶揄い倒してみたい。若松は敬語使う系のお兄ちゃんになって欲しいかなー」
「確かに……。みこりんはあのまんま妹に弄られるキャラを貫いてそうだし、お兄ちゃんな若松くんは『どうしたんですか、何かありましたか佳ちゃん』って感じで話してそう!」

例えば「佳ちゃん、一緒にこのプリン食べませんか」とか言ったりとか?うぅ、それって若松めちゃくちゃ可愛いんじゃ……!
欲しい。そんなお兄ちゃん切実に欲しい。内心酷く悶えているけれども意地でも顔に出さないように表情筋を総動員して(?)、それでも手はスマホに伸びて若松にすぐメッセージを送れるように操作していた。

「それ凄い想像できるかもっ、可愛い!絶対若松にやってもらう!」
「それいいですね!若松くんと、ついでにみこりんにもさせましょうよー!」

なんかこれ、思いがけず盛り上がりを見せている。テンションの上がってきた千代、ニコニコしながらペンを走らせる野崎。女子会のネタにでもなるのかな、こんなので大丈夫なのかな。そわそわしながら首をひねる。

「佳先輩?どうかしましたか?」
「あ、大丈夫だよ。次ね、次。ええと、野崎はおじさんらへんかな」
「お、おじさん……」
「ひょうきんなおじさんね」

うん?千代、あんまりしっくりきてない感じ?だって野崎って掴み所がないってか難しすぎて、身内感が薄いんだもん。

「野崎ってあんまりお兄ちゃん感も弟感も、言ってしまえば息子感もないよね。強いて言うならお父さん世代?他人だけど家族、みたいなのがぴったりくる感じ」
「おお、そういう感じですかぁ」
「結月と鹿島が難しいよね、こういうのって」
「確かにそうですよね。結月と鹿島くん、先輩お一緒に家にいるってイメージあんまりないかも……」

そうだなぁ、結月は敢えてお姉ちゃんとかどうだろう。問答無用で振り回してくるお姉ちゃん。大変そうだけど楽しいだろうな。鹿島は何だろう、なんか途轍もなく「隣に住んでる憧れの幼馴染」的な美味しいポジションが似合う気がするような。だってもうオーラが違うからね、いつも纏ってるオーラ。常人のものじゃないもんね。

「じ、じゃあ堀先輩とか……!」
「え、堀?堀かぁ……」

堀はどうだろう。弟ではないなぁ。お兄ちゃん感はあるけど自分のお兄ちゃんってなるとイメージ出来ない。どっちかっていうと、家族っていう括りなら旦那さんとかになってほしいなぁ、なんて「俺がどうかしたか?」いいいいや、そんなこと思ってなんかしてないし!

「び、びっくりした……!!」

突如真上から発された声に心臓が止まるかと思った。見上げたら顔が思いのほか近くて咄嗟に目を逸らす。あの、少しばかり距離が近すぎやしませんか堀さん、他意はないのかもだけどいきなりそんな上から、えっとあのその。

「堀先輩は家族だったら何が似合うかなーって話をしてました。そうだ、先輩はどうですか?佳先輩を家族に例えたら!」
「長谷部か?……そうだな、目ぇ離したら危なっかしいが、あんまり妹って感じじゃねえよな。だからといって姉貴とかでもねえし」

なんて無茶振りをしてくれるの千代!?そう思ったのだけれど、堀は案外本気で考えてくれていた。目の前で自分について語られるのって妙に恥ずかしいな、無駄に羞恥心を煽られる感じがして……。
ぽん、頭の上に軽く堀の手を乗せられて更に血の巡りが加速する。

「ちゃんと見てねえとある意味心配だよな、長谷部って」
「そ、それ前も言ってたよね?別にドジって程に必要以上にポカやってるつもりは!」

それ、何やらかすかわかんないからって意味が含まれているよね?ドジっ子属性はないはず……。
え、そんなに私って頼りない?それはちょっと落ち込むなぁ。

「長谷部のイメージって、なんつーか……帰宅したら毎回一目散に玄関まで迎えにきてくれそうな感じ」
「子供かワンちゃんみたい?」

「おかえりなさーい!」って尻尾振ってるワンちゃんとか飛びついていく子供とかそんな感じね。想像できないこともないだけに、嬉しいような悲しいような。

「それよりは寧ろ、よ……」
「よ?」

ぴしり、堀が固まった。どうしたんだろう。よ、って何を言いかけて止まったのかな。
よ、よ?……嫁さん、なんてそんなのあるわけ、

「堀先輩?」
「い、いや、なんでもねえから!」
「どうしました?佳先輩も真っ赤ですよ?」
「……ち、違うもん、多分」
「?」

そうだったらいいな、なんて思っちゃった私の馬鹿。
でも、でもね。自分勝手な夢だって、思うだけなら自由でしょ?

無意識+未来予想図


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