「ん、うぅ……」
「長谷部?」
ふっと微睡んでいた意識が戻り、ゆるゆると瞼を開けた。横向きの机の脚、正面に座ってる制服を着た誰か、上から降ってくる名前を呼ぶ声。ぼんやりとした視界の中、誰かが髪を撫でてる気がする。くすぐったいけど気持ちいい。
「起きたのか?」
「……や。だめ、」
一瞬ピタリと止まった手がそのまま離れていこうとするのを防ぐように頭を擦りよせ、もっとやって、と強請るように呟く。
こういうの久しぶりだ。すごい寝心地良かったから止めちゃうのは勿体ない。あと五分だけ寝かせて欲しい。
「……仕方ねぇなぁ」
「わ、佳先輩まだ寝ぼけてる。甘えてるなんて可愛いですね……!」
躊躇いがちに動かされた指に満足し、再び目を瞑って頭の下にあるぬくもりにぎゅっとしがみつく。
冷房が効いてるせいかちょっぴり寒いから、人肌の温度が丁度良い感じ。横たわってる身体、少し肌寒くて擦り合わせてる両足、冷たい床の感触、って……。
「!?」
待って。何これ。私、どういう状態なの。
落ち着け落ち着け。最初から思い出してみよう。さっき私は座ったまま眠りこけてたはず。その時堀が隣座ってて、何をどう考えたのか寄りかかってそのまんま眠りに落ちてしまって……!
「〜〜〜〜っ!」
「先輩起きませんね」
「目が輝いてるよ野崎くん!?もしかしてこれ漫画に使う気じゃ……!」
そりゃ佳先輩妹みたいで可愛いけどさ!と言いつつ必死に阻止してるらしい千代と何かを描いてるらしき野崎のテンション高めのやり取りも今は右から左。絶句してそんなのに気を配ってる余裕すらない。
普段は寝起きが比較的悪い方の私でも、流石にこれは一発で脳が覚醒した。
頭の下にあるのは堀の足で、何故か成り行きで髪を撫ぜてくれてるのは堀の手で、いつの間にか私は本格的に寝っ転がって寝てる。何がどうしてこうなったの。唯一の救いは無防備だろう足元に誰かのブランケットが掛けられてること、ってそうじゃなくて。
なんだって膝枕とかされてるの私、どうしてそんな普段通りでいられるの野崎も千代も!
どうしてよ、何を間違えたらこんな事態になっちゃうの。混乱した頭を抱え、恐る恐る開いた瞼、視線を天井の方に向ければこちらを覗き込んでいた堀とバッチリ目があった。
「やっと起きたか?」
おはようって時間でもねえか、そんな台詞を言うか言わないかのうちに飛び退く。
「ご、ごごごごめんなさい!足痛くなかった!?頭乗っけたままで重かったよねごめんね堀!」
「これくらいだったら大したことねぇから。それより気持ち良さそうにぐっすり寝てたな、寝不足だったのか?」
「それもあるんだけどなんというか……!ひ、膝枕とかそんなことさせるつもりはなくてほんとにごめんなさい……!」
「だから大丈夫だって。なんつーか、その、役得だったしな」
役得ってなんだそれ。堀に寝顔見られてただけでも恥ずかしいのに、千代と野崎にこんなことしてるの見られてたってことも考えるだけでもう!
誰よりあなたがいい
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