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何だってこんなことに。

堀と二人で上がり込んだ野崎の家(家主不在)。手伝えと言った本人が居なかったらやることなんてなくて。
差し入れとして持ってきたジュースをコップに注ぎ、ふたり分テーブルに置いたところで手持ち無沙汰になった。え、もうお菓子食べちゃう?もう5分くらい待って帰ってこなかったら食べちゃっていいかな。だって野崎、帰って来る気配がないんだもん。
とりあえずテレビが見やすい位置に座ろう、そう思って腰を落ち着けたはいいけれど。

「何、してれば良いんだろうね?」
「さあな。野崎が考えてることなんて型破り過ぎてわかんねえし。大人しく待っているのが一番だろ、きっと」

(野崎専用の作業用机以外は)綺麗に片付いてる部屋の中で堀とふたり、何をするともなく肩を並べてのんびり寛ぐ。外では精神的に余裕がなくて気温とかに気を配れなかったけど。ていうかここ数日それどころではなかったのだけれど。何だかんだで秋は遠く、残暑が続いてるこの時期、じっとりと汗でベタつく肌が気持ち悪い。
クーラーは家主の承諾を得ないままだが躊躇いなく付けた。じゃないと熱中症になりそうだし。電気代がかかる?それは大変申し訳ないとは思うけど今のところ自分の健康が大事かも。だってもう、茹るような暑さなんだから。

「あ、明日もっと暑いって」
「マジか。これ以上暑くなったら溶けちまいそうだよな」

早く秋にならないものか。
天気予報が表示する無慈悲な数字に絶望しつつ、そこらへんにあった下敷きで仰ぐ堀を見やる。ちょっと待って。暑さで頭働かないけど、こんな無意味なように思える言葉を同じ部屋で肩肘張らずに交わせるだなんて。そんなの、

なんていうか、一緒に住んでるみたい?

「ってバカ、何考えてんのもう……!」
「ちょっ、頭机にぶつけて何やってんだ長谷部、大丈夫か!?」
「ちがう、暑さで暴走しちゃっただけ」
「暴走?」

そうそう暴走なのです。だからあんまり深く突っ込まないでください。湯気が出てきそうなほっぺたを両手で隠しつつ、蚊の鳴くようなか細い声で訴える。堀は納得したのかしていないのか、私の頭をポンと叩くと、視線をテレビに向けてくれた。
うう、察しが良くて助かります。だって、堀との有りもしない未来を妄想してました、なんてそんなの言えっこない。こんな頭お花畑だと知られたら愛想つかされそうだ、もう。

「こんな暑かったらアイス食べたくなる、かも」
「そうだな。長谷部の頬も冷やさなくちゃいけねぇもんな」
「ちょ……もう!」

誰のせいだと思ってるの。私と同じ場所に、隣に、すぐ側に堀がいるからだもん。こんなにも頭の中を占めて、引っ掻き回して、
しあわせなの、絶対堀のせいなんだから。

◇ ◇ ◇

「それにしても、野崎のやつ遅いなー」
「ねー。千代迎えに行くだけなのに、結構時間かかってるよね……」

そんなことを言いながらテレビの電源を付けリモコンを操作する堀を見ていたら、不意に睡魔が襲ってきた。まだ少し暑さが残る空間、特に会話もない静かな部屋、掛け時計の秒針の音、興味のない報道番組のナレーション。
あらゆる音をBGMにして、気付けばうとうとと船を漕いでいた。

「……ふぁ、」

欠伸が出た。やばい、これは本格的に眠いかも。
そりゃそうだよ。昨晩考え事しながら寝たから、ぐっすりスッキリ寝れたわけじゃない、し……。

長谷部、そう堀に呼ばれた気がした。返事をしたけど、それが言葉になってるかどうか確かめられるほど意識はしっかりしてなくて。
あ、この座り方だと良い高さに堀の肩がある。横に座って良かった、そう思いながら肩に寄りかかって目を瞑る。

「ごめんね、堀。5分だけ、このまま寝たいかも……」
「はぁ?おい、長谷部……?」

自分が割と恥ずかしいことしてる自覚はあるんだけど、いかんせん眠さが増してるというか。睡魔に抗うことなく、意識が徐々に沈んでいく。

頭の上、あったかいのはきっと夢かな。ぽんぽん、リズムよく触れられるのが気持ちいい。そうだなぁ。いつかこうやって、ふたりくっついてゆっくり過ごせたら良いなぁ。
そして、目を開けたらすぐ側に堀がいるの。目覚めて一番に見るのが大好きな人の顔なんて、そういうのって憧れちゃう。笑った顔だって困った顔だって全部全部見ていたい。仕方ねぇな、そんなこと言って偶に甘やかしてくれちゃったらもう最高。

ねえ。やっぱり期待しちゃうよ、大好きだもん。現実では言えないから、せめて夢の中では素直にね。
だって、こんなの、きっと幻。それでも、「……俺も、お前から片時も目ぇ離したくねぇくらい好きだ」なんて。拗ねたような顔の堀を、目が覚めたら忘れちゃうなんて勿体無くてやだな。

=アイ・ラブ・ユー


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