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野崎の方に向かう青いシャツを目で追いかけて、私の足は棒になったように地面に引っ付いて動かないまま。

だって。
そんなの、言い逃げなんて、ずるくない?期待しても良いよ、なんて言ってしまってもいいの?
どっかに行くのに付き合って欲しいなんて口実で並んで帰って、期待するかも、なんて言われちゃったら自惚れてしまうよ。
好きなんだもん、都合の良い風に解釈しちゃうよ、そうやって思わせぶりな言葉を使うなんて反則だよ。

「先輩」
「んん……だって……そんなの、こっちの台詞っていうか……」
「長谷部先輩、大丈夫ですか」
「……え、あ、なに?」

悶々と頭を抱えていると、すぐ側には野崎が。相変わらず考えの見えない顔で私の名前を呼んでいた。

「今から少し手伝って貰いたいことがあるんですが。堀先輩にも頼んだんですけど」

と、言いますと。十中八九漫画のネタがうんたらかんたら、とかかな。いつものやつ。
暇なときなら喜んで手伝うんだけれども、でも、今日は……。地面に視線を向けて難しい顔してる堀を盗み見る。

「あの。その、……堀は、なんて?」

だって。有耶無耶にされちゃったけど、遠回しにだったけど、一緒に帰ろうって言ってくれたんだもん。これってちょっと放課後デートっぽくない?なんて思っちゃったりした私としては、その。

声のトーンを落として囁くようにして聞く。
野崎と私の身長差はそれなりにあるから、イメージする内緒話のスタイルとはかけ離れているけれど、まあそれはそれで堀に聞かれなければ問題はない。いや、その、別に堀に聞かれたって困るような内容でもないのだけれど。

悔しいけれども背丈の違いを埋め合わせるように少し屈んだ野崎は、頭に疑問符を浮かべながらいつもの調子で口を開いた。

「長谷部先輩に任せるって言ってました」
「ええー……、なんだそれ」

それはどっちと捉えたらいいの。このまま一緒に帰るか、野崎の家に行くかどちらかを選べってこと?

それなら、もしそうなら、少しでも長く一緒にいられるように。なーんて、ついつい策を練っちゃう私は打算的すぎるかな。

「うん、私で良ければ」
「……」
「ありがとうございます!後から佐倉も来る予定なんで、二人とも先に行って待っててください」

そうやって家の鍵を預けられるのは信頼の証、ってことかなあ。
それじゃこれを、と無造作に渡された鍵に目を白黒させている堀を他所に、野崎は心なしか上機嫌にみえる。引きつったような笑みで足取りだけは軽く去って行った。
え、どこ行くんだろ。もしかして千代を迎えに行くのかな。彼女にとっては願ったり叶ったりというか、とんでもなく嬉しいことなのだろう、けど。

千代の幸せ満点の可愛い笑顔を思い起こしてから、ハッと我にかえる。
あれ。自分のことに精一杯で気がつかなかったけれど、野崎ちょっとハイになってるっていうか、目の下クマができてなかったか。

ねえ堀、と声をかけようとして一瞬息を呑む。なんか、堀もなんかちょっと顔が険しいっていうか。どう言えばいいのかな、その、ご機嫌ななめ……?

「堀?どうしたの、変な顔して」
「……いや、なんでもねえ。可愛い後輩に頼まれちゃ仕方ねえしな」
「?まあ、可愛いかはともかく、野崎はほっとけないよね」

目を離すと暴走しそうで。余計なひとことは付け加えずに胸の奥にしまっておく。

「ま、残念だが行くとすっか」
「ざ……!?」

ざんねんって、どういう意味?
ちら、と横目で一瞬こちらを見た瞳が頭にこびりついて離れない。
え、なに。私のせいってことなの、それ。
ムッとして反論したくなって、唇を尖らせて拗ねたふりをする。

「だって。まだ帰りたくなかったんだもん。せっかく一緒にいるんだし、もっとって思うのは……だめ、ですか」
「……」

ぴたり。足を進めかけていた堀の動きが止まった。

「それじゃ、デートはまた今度、な」

うう、見事なカウンターパンチ。振り向いた顔は今日イチのくしゃくしゃの笑顔。
それ、演劇部の芝居の真似?それとも、もしかしてもしかすると本音を茶化して言ってる?
くしゃっと笑う、その背中にはまだきっと手が届かない。

「期待してるよ、ばか」

投げかけた言葉は聞こえているかいないのか。
ううん、聞こえてなくったっていい。
だって、絶対、きっと……。

リトル・ミスの憂鬱


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