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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「長谷部!準備できてるか?」
「あ、うん!大丈夫だよ!」

3Cの教室、その入り口で堀が声を張り上げる。

「え?なーにぃ、佳ってば堀ちゃんとデート?」

堀ちゃんが鹿島くん追いかけてないなんて珍しい。そう呟いて友人がニヤニヤ笑う。
そうだねえ、そうだったらいいのになぁ。
もう自分から逃げたくなくて、いちいち真に受けちゃって動揺するのもしんどくって。別に悪いことをしているわけじゃないし、いつも通り振る舞えば良いんだ。開き直っちゃったら気持ちがすっと軽くなった。
茶化すような彼女のセリフに、あはは、と軽く笑って手を振る。

「違うよー。でも鹿島に『お姫様取られた!』って怒られちゃうから、この件は内緒ね?」
「……え。鹿島くんはともかく、佳的にも堀ちゃんがお姫様なわけ?そこは王子様とかにしなよ」
「やーだっ」

その言葉に、扉の方にいる彼の表情が固まったのは気のせいだと願いたい。


◇ ◇ ◇

校舎を出てから、堀の顔は晴れないままだった。

「あの、ごめんね?結構お姫様とか王子様とか気に入ってるの、鹿島絡みだとつい言っちゃうっていうか……ごめんなさい」

だってあの王子(堀曰く当て馬)、私大好きなんだもん。この前鹿島に極秘で頼んで台本入手するくらいには、もう。こんなこと、悔しいから堀には言ってやんないけど。
この前鹿島が「堀ちゃん先輩ってお姫様願望があるんですよ」とかなんとか言ってきたことも一因ではあるのだけれど、それは伏せてたほうがいいと判断し、何度か平謝りをする。

「…………ま、別にいいけどな」
「すみませんー」

そのたっぷり空いた間、全然全く納得してないように感じられるから申し訳ない。

一旦視線を外した堀に合わせ、軽く空を見上げた。いつもの帰り道、こうして一緒に放課後を過ごすのも両手では数え切れないほどである。話すようになってそんなに経ってないのに案外一緒にいるもんだなあ、そう自覚して自惚れて。
昨日の、話に出さないってことは堀にとって大したことでもなかったんだ。現実を見て、またどうしようもなく苦しくなる。


「ねえ、どこに行くのかそろそろ教えて欲しいなぁ」
「あー、そうだなぁ……」

珍しく言葉を濁す横顔に、目を奪われてしまったのは隠し通して笑う。

「あれ、予定とかないの?」
「まぁな」
「なんで?用事あったとかで、私が駆り出されたんじゃなかったの?」
「別に、一緒に帰ろうと思っただけだからな。部活もないしゆっくり帰れるだろ」

ぽん、何気なく飛んできた爆弾を処理し切れなくて数秒間思考停止する。

「そ、っか。それなら帰ろうってそのまま言ってくれればよかったのにー」
「しょうがねえだろ、その方が言いやすかったんだよ」

予定があるから付き合って、って言うのはセーフで、一緒に帰ろうは難しいんだ。ふうん。百戦錬磨の役者さんみたいな余裕がある堀でも、そうやって照れることあるのか。かわいい。

「そんな笑うことか?」
「良いでしょ、嬉しかったんだもん。私、堀のそういうとこ好きだよ?」
「……っ、お前なぁ……」

もうこうなったら、とことん開き直ってやる。ぐしゃ、髪をかきあげ困り顔の堀を拝めたから今日のところは私の勝ち、なんてね。
いいでしょ、これくらい匂わせたって。だってまだ子供だもん。上手い駆け引きなんて出来ないよ。わかりやすく、気付いてってサインを送ったって構わないでしょ。

「あのな、長谷部」
「?うん」
「……あまりそういうこと、簡単に言うんじゃねえぞ」
「どうして?」

堀が足を止め、何やら真剣な顔で口を開いたところで、

「あれ?堀先輩も長谷部先輩もどうしたんですか、こんなところで」
「あ、野崎」

くしゃり、カバンを持ってない方の手で髪に触れられたのはほんの一瞬。
付き合わせてた顔をパッと離し、背中側にいた野崎の方を向き直す青いシャツの背中が目に入る。けど。目の前がぐるぐるで気にしてる余裕もない。

ーーー期待しちまうだろ、バカ。

耳元で囁かれた言葉が、頭の中を回って飛んだ。

僕には見えない笑顔


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