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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

気持ちが浮ついてるのか、そわそわした状態が続いている。頭を空っぽにした途端、堀に髪を撫でられた感触が思い出されて、慌てて脳内から叩き出す。ここ数日ずーっと、この繰り返し。

「長谷部?どうしたんだ?」

あ、まだ授業中だったんだっけ。知らないうちに堀の方をぼーっと見ていたらしい。声をかけられて、はっとする。

「や、えっと、問3の答え何になったかなって思って」
「あー、3じゃねえか?」

苦し紛れの言い訳だけど、そこには気付かれていないらしい。良かった。
でも、答え3だっけ。私のは5になってる。どっかで計算間違ったかな、あってると思ってたんだけど。

うん?でも、ちょっと待って。黒板に書いてある図と私が開いてる教科書のページの図、違うような気がする。

「ごめん、今何ページやってるの?」
「137ページ。大問2、問1から3だろ」

大丈夫か?ってこちらを見てくる堀に曖昧な笑みを返す。正直、大丈夫とは言えないと思う。さっきも「王子!」って言葉に反応して廊下に視線を移したら、鹿島が通りかかっている所だったし。もう、とんでもなく重症かも。
丁寧に教えてくれた堀にお礼をし、手早く教科書のページ数を確認する。あ、やっぱり解く問題、間違ってた。なんか、今日は調子悪い。小さくぼやいて、シャーペンをノートに走らせた。



授業が終わった瞬間、前の席の友人が勢い良くこちらを振り向いた。

「ど、どしたの?」
「堀くんと佳って、そんな仲良かったっけ」
「え?最近、後輩経由でちょっと話すようになっただけだよ」

なんでいきなりそんなことを。聞いてみると、二人で授業中に仲良くしてたじゃん、とあっけらかんと告げられた。仲良くって言われても、教科書のページ数聞いただけだし。それくらい誰とでもあることじゃないの。申し訳程度にした控えめな反論は、予想通り無かったことにされる。つまり綺麗にスルーされた。

「じゃあ、王子様の話、ちゃーんと聞いてみた?」
「まあ、一応、聞いた……」

やっぱり聞かれると思ってたよ、そのこと。絶対堀くんに聞きなさいよって、何度も何度も念押ししてきたもんね。
若干後ずさりながら、ぼそぼそとと答えると、たちまち瞳をキラキラさせた友人が身を乗り出してきた。ぐいっと顔が近づく。なんかこう、好奇心の塊みたいな感じになっている彼女は、そのままの姿勢で語気鋭く言い放った。

「で、結局、誰だったの?」
「あー、それは、まあ」

口ごもる。2年間同じクラスで、加えて、たった今隣の席の堀でした、なんて、そんなの言えない。というか隣に本人いるのに王子様、なんて口に出来るわけない。全然何も知らないならまだしも、堀は全部事情知ってるし。
その張本人は、隣でクラスの人と話してる。こっちの話なんて聞いてないかもしれないけど、もしかしたら聞いてないふりして聞いてたりするかもしれないし。というか、そんな危ない橋渡りたくないよ。

「知らないって。鹿島じゃないのかって言われた」
「……ほんとに?」
「ほんとにほんとだよ!こんなことで嘘ついてどうするの!」

怪しいと勘ぐられ、内心冷や汗。でも、これを言われたのは嘘じゃない。本当のこと。何だったら堀に聞いてみてよ、とまでは言えないけど。

「もう、これ以上はダメ、他の人に聞かれたら恥ずかしいよ!」
「別に良いじゃない。運命の相手を探してるわけじゃないもの。ま、ある意味運命的な出会いだとは思うけどさ」
「たまたま校内で遭遇しただけ!そんなの全然運命的じゃないから!」

誰かの声が聞こえたから興味が湧いて見に行ったというのは、運命って響きとは不釣り合いじゃないのかな。ただの気まぐれなんだけどなぁ。

「何でよ?言い換えれば、王子様の声に誘われて、迷い込んで行ったんでしょ。運命って感じじゃないの」

そんな無理してロマンティックな感じに纏められても。ちょっと強引すぎるんじゃないかな、その例えは。
なんか、会話の流れが想定していたものと別方向に向かっている気がする。
とりあえず隣に堀がいるのにこの話をするのはやめよう。もし聞いてたらどうするの。

「ほら先生来たし、皆教室に帰ってきたし、この話はおしまい!」

不満げな友人をどうにかして前に向かせ、ため息とともに机に突っ伏す。

王子様みたいだなぁって思った人は堀だった、それだけ。それ以上でもそれ以下でもない。そりゃあ驚いたし、感激したし、ちょっとホッとしたりしたけども。運命とか、そういうのじゃ、ないよ。
堀も最初こそびっくりしてたけれど、今となっては気にしてないみたいだし。ばかみたい。何でこんなに動揺してるのよ、私だけ。ちらりと横目で見た先にいる堀は、いつも通りの様子で話をしている。二人の間の温度差がどうしようもなく遠く感じて、この状態から早く脱却したくなって、現実逃避するようにぎゅっと目を閉じた。

君だけど君じゃない


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