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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



あの、展開が早すぎて感情が追いついていないのですけれど。

球技大会の打ち上げ後、知らないうちに堀と一緒に帰ることになっていた。いや、本音を言うと物凄く嬉しいんだけれども、話す機会とか全然なかったし。でも、裏で手を回していた私の友人の手際が良すぎて逆に恐ろしいというか。
「それじゃ堀くん、佳のことよろしくね」なんて堀に頼んでいる(半ば押し付けている)友人を見た時は、驚きを通り越して顔から血の気が引いたな……とか考えている場合じゃない。

「……」
「……」

カツカツカツ、と二人ぶんの足音が響く。こんな時に気を使ってくれなくても良いのに、空気読みすぎだと思うんだ、クラスの皆。
ど、どうしよう変に緊張しちゃって沈黙が痛い。何で、野崎の家から帰るときは二人っきりだって平気なのに。働かない頭を振り絞って、それとなく話題を振ろうと口を開く。

「き、今日の月は大きいね……」

って何を言ってるの私、よりによって月の話題って……!こんなの気を許してる家族相手でも拾いにくいでしょ、これじゃ会話続かないよ!
自己嫌悪と焦りでぐるぐる回る思考回路。でも考えれば考えるほど打開策は霞んでいって。

「じゃなくて、ぁああの、えっと……」

「そうだ、長谷部には聞いていなかったな」
「えっ?」

不意に投げかけられた言葉に、半ば食い気味に飛びついた。

「漱石がI LOVE YOU.を月が綺麗ですねって訳したって話、知ってっか?」
「?うん」

あ、確か、「私死んでも良いわ」とかいうのもあったっけ。あれ、そっちはI LOVE YOU.じゃなかったかも?

「この前野崎たちと話していたんだが、長谷部だったら何て訳す?」
「え。うーん、そうだなぁ……」

いかにも少女漫画に出てきそうなフレーズだよね。たった一言、「好き」って感情にいちいち振り回されてる私には、愛してるってどう表現したら良いのかなんて、いまいち実感もわかないけど。
聞くところによると、野崎は「ベタが綺麗ですね」、千代は「あなたの為なら背景だって学んでも良いわ」と訳したらしい。えーと、どこから突っ込めば良いのかわからないけど素晴らしいくらいの相思相愛っぷり……。

「……うん。夢の中でだってあなたに会いたいわ、とかかな。ネタとしてはベタかもだけど」
「夢?」
「夢ってあまり自分でコントロール出来ないでしょ?だから、長い時間ずっと、それも意識せずともあなたの事を考えているよって」

これが私の精一杯。自室で悩みに悩んで答えが未だに出せてなくて、この感情を抱えて今後どうすれば良いのか見通しが立っていない今の私が思うのはこれだけ。まだ、あなたの事だよっては言えないけれど、いつか堀に面と向かって言える日が来るのかな。そういう覚悟を決められるだろうか。

「成る程な。永遠にあなたの事を想っています、みたいな感じか」
「うーん。永遠って言っても死んじゃった後とか1000年後なんて興味ないからなぁ。それなら、命続く限りずっとあなたの事を慕っています、って方が儚くて素敵じゃない?」
「……」
「堀?」

あれ。瞠目したと思ったら、堀が不意に足を止めた。え、私何か変なこと言っちゃったっけ。必死に思い返してみるけれども、思い当たる節は何もない。

「なんつーか、長谷部って……そういう台詞回し上手いよな」

ぼんっと頭から湯気が出たんじゃないかってくらいに頬っぺたが熱くなった。ストレートな褒め言葉は慣れてないのに、そんな小洒落たこと言ったつもりなんてなかったのに。
劇の台詞に採用にしたい、なんて演劇部部長の口から引き出したのを喜ぶべきか、小っ恥ずかしいことを言っちゃったって捉えるべきなのか。うん、本当は、心の底では悪い気なんかしてないけれど、そうじゃなくて。

「え、永遠かどうかはともかく。好きな人のことは無意識に考えてるものじゃない?その人の好きな色を選んじゃったり、隣に相応しいよう服装に気を使っ……」
「長谷部?」

誤魔化すように早口でまくし立てていた言い訳が止まった。思い浮かんだことを校正せずにそのまんま口に出してしまっていたから、

ーーー堀ちゃん先輩のために、踵の低い靴選んだんじゃないですか。

いつぞやの、からかい混じりの鹿島の声がフラッシュバックして。

「なん、でもない……」

口を開けたらドツボにハマっちゃう、なんて気が付いた時にはもう遅くて。最早とっくの昔に自爆していた。しゃがみこんで頭を抱えたいのを堪えて羞恥に耐える。
ばか、一体いつの話を思い出してるの私は。王子スマイル、俗にいうドヤ顔の鹿島が鮮明に頭に浮かんできて、更に赤面してっていう悪循環。
このままでは不味い、大変危険だ。この話題を続けていたら、どんなことを口走ってしまうかわからない。超特急で頭をフル回転させて勢いのままに話し出す。

「あ、そういえば今日見に行ったよ、バスケ上手かった!」
「まぁ、最後は負けちまったけどな」
「良いところまでいったのに惜しかった。歓声も凄かったよね」
「鹿島がバスケやってた時の応援の方が凄えだろ」
「そう?堀も格好良かったし、私、好きだよ」

かちん。今度こそ空気が凍った。ゆっくりゆっくり発した言葉を振り返る。

「え?」
「あ」

あ、言っちゃった。

半永久的に愛してよ


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