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なんかもう、野崎との(ネタにされるかされないかの)攻防も、堀とのいざこざも、どちらもどうでも良くなってしまった。なるようになる、もう誰に隠す必要があるのか。もう堀に悟られてるってことは、その他の不特定多数に知られても知られなくてもそう変わらない。結果的に、堀とだって普通に喋れてるし。うんうん、終わってしまったことをうだうだ言ったってしょうがないや。
夏の暑さにやられたのか、頭はやさぐれモード。諦めもいつもより幾分か早い。

いつもより数倍騒がしかった野崎の家を後にすることにし、それを家主に伝えると堀も帰るという。千代にそれとなーくエールを送った後、堀と一緒に野崎の家を出て、いつも通りの最寄駅までの薄暗い道を歩く。街灯の光だけを頼りに、堀の半歩後ろに私がポジショニング。あれ、こんなの前もなかったっけ?もしかしてデジャビュ?
くるくると忙しい頭の中を余所に、肌に触れる空気はまだまだ蒸し暑い夏のままで、こうやって日が沈んだってうだるような生温さは抜けない。一向に下がらない気温が気持ち悪い。それにしーんと静まった夜道は気味悪いし、気持ちを紛らわすために何か会話をしようと口を開いてみれば、真っ先に出てくるのはお決まりの言葉。

「あー、暑いねー」
「だな。クーラーなかったら生きていけねえぞ、これ」

野崎の家ではクーラーをガンガンつけてたから、カーディガン羽織ってなかったら肌寒く感じそうなくらいには涼しかった(一人暮らしのくせに贅沢、と思ったことは内緒)。だからこそ、この絡みつくような空気のぬるさは気持ち良いものではない。

「なぁ長谷部」
「うん?」
「アイス食って帰るか」

そう言って堀が指差す先にはコンビニ。うん、良いアイディア。



がっつり冷房が効いて涼しいコンビニで、手早くアイスを選んで購入する。ここは結構学校から近いし、誰かに見られたらと思うと落ち着かない。勘違いされたくないというか、そういう噂になりたくないといいますか。だってそんなのが堀の耳に入って、それとなく否定されちゃったら脈なさそうで落ち込むじゃない、なんて。
あれ?でも、別にお付き合いしてなくたってコンビニとかに寄り道したりするの言うほど特別な事じゃないよね、クラスメイトならあり得ない話なんかじゃないし。じゃあ、ただの仲良いクラスメイトって堀の口から聞いたらそれはそれで嫌だなって考えてしまうのは卑屈になりすぎって事なの?

「それ、ちょっと一口貰っても良いか?」
「え、私の?」

買ったアイスクリームが溶けるのも構わず、仏頂面で唸っていたところにいきなり声をかけられて驚愕する。
それ、の意味の確認のために差し出した(つもりの)私のアイスクリーム、ひょいと器用に一口奪われる。あれ、男の子の一口って大きくないか、じゃなくて。

「えっ」

今の、もしかしてもしかしなくても間接きすとかいうやつじゃないんですか。

なに、堀って天然なの、それともこれ確信犯なの。全神経を集中させて平静を装って、気付かれないように顔を確認しても、そういったのは読み取れやしない。

「そ、そっちのは美味しい?」
「ん、まぁな。食ってみるか?」
「……!う、ん」

ねえ、それは一体どういう意図で言ってるんですか堀ちゃん先輩、なーんて茶化して聞いてみるわけにもいかず。据え膳食わぬは女の恥、とかなんとか咄嗟に浮かんだ造語を心の中で唱えつつ、差し出された食べかけのアイスクリームにかぷりと齧り付く。いつもの一口よりも気持ち小さめ、それが私の精一杯だった。

ああもう、とんでもなく甘いけど酸っぱいや。なんとも言えない甘酸っぱさが口の中で消えていく。暑さでちょっと溶けちゃってるよ、これ絶対。

報われなくったって


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