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今日は久々に野崎の家に遊び……じゃなくてお手伝いに来た。どうやらまだ今日は千代は居ないらしい。用事を軽く済ませてから来るとかなんとか。うーん、ちょっと罪悪感?千代が少しでも早く来ることを願っとこう。

野崎に指示を仰いだが、今の所は何も手伝うことはないそうな。その時点でここに来た意味を半分以上見失ったわけなのだけれども、私の出番まではあと少しらしいので漫画読みながらぼちぼち待っておくことにする。リビングの隅っこに大人しく座っておけば邪魔にもならないだろうし。棚に並んでいた今月分の月刊少女ロマンスを手に取り、そういえばまだ最新号の野崎の漫画読んでなかったなとページを開いたところで、

「え?」

愕然とした。
今回はサブキャラの話らしい今月号の漫画の内容ーーー夏らしく学校で怪談大会があったらしいマミコのクラスメイトの男子と女子。本当は怖いけど意地張って男子に頼るのをグッと我慢している女の子。だけど大会の帰り道、どうしても暗い夜道が強くなった彼女が男子に電話しようとしたその時、ベストなタイミングでその張本人が颯爽と現れてイチャつきながら帰路に着く……ってこれ、なんか親近感を覚えるというか、この前同じようなことをやったような。

もしかしてこのネタ元って、まさか。頭の中にちらつくのは、野崎や堀たちと肝試しした日の帰り道。野崎に電話口で会話に付き合ってもらいながら夜道を歩いたあの夜。
訳のわからない悲鳴をのみ込み、作業効率のために静かにしてようという気遣いは何処へやら、野崎の顔に向かって漫画雑誌を押し付ける。

「先輩、ネタ提供ありがとうございました!今回のは剣さんにも褒められたんですよ!」
「そういう問題じゃないよ!!!」
「ちなみにこの女子生徒は王子様を探しているという設定で、実はその正体はこのクラスメイトの……」
「やめよう!ね!それだけは絶対にやめよう!」

何で王子様云々の事情をほぼ説明していない癖に結論がぴったりあってるのか不思議でしょうがないよ!え、私王子様が堀だった話とか本人と鹿島以外の前でしてない筈だよね。びっくりだよ。
しかもこれ、何の罰ゲームなの、全国の女の子たちに晒されてるとか耐えられない!言葉にならない声を発しながら反論するけれども、聞き入れる気はないに等しい。もう決まってしまいましたし剣さんのお墨付きです、と語る野崎はいつもの三倍くらい生き生きしている気がする。
ああ、これ絶対にどうしようもないパターン。これからはネタにされないように慎ましやかに生きていかなくちゃ。部屋の隅っこで小さく頭を抱えて決心する。もう醜態は晒さないんだから。


「野崎くーん、お待たせー!」
「邪魔するぞー」

玄関から元気な声が二つ飛んでくる。近くのコンビニの袋を持って入ってきたのは堀とニコニコ顔の千代。

「お、長谷部も来てたのか」
「現在進行形で来なければ良かったと思ってるよ……」
「どうかしたのか?」

いえ別に何でもない、と肩を落とす私を見てハテナマークを浮かべながら、堀が真正面に座る。どうもこうも無いと言いますか、もう説明するだけで心が折れそう。深い深い溜息をつく私の横で、千代が慌ただしく野崎の元に駆け寄った。健気だな千代、元気で羨ましい。

「野崎くん野崎くん!今月号の漫画読んだよ!王子様を探している女の子の話、すっごく面白かった!」
「あ、佐倉それは……」

事情を察した堀が止めようとしたのか千代に声を掛けてたけれども、もう遅い。
もうみんなして何で私の精神を抉ってくるんだもう!あーとかうーとか言葉にならない声を漏らしながら、勢い良く机に突っ伏した。

王子様はどこですか


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