×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


いつもだったら嬉しいはずの昼休みが、全然全く嬉しくない。頭の中をグルグル回り続けるのは、つい一時間ほど前の10分休みに起きた、ほんの些細な出来事。

休み時間に突入してすぐ。堀がこちらを向いて何かを口にしようと若干口を開いて、一瞬の逡巡の後にふいと顔を背けた。言ってみればたったのそれだけ。言おうとしてやっぱやめたと思うことなんて数え切れないほどあるし、言いたいことを忘れちゃったとか、そういうことだって良くあること。日常生活でありきたりなことにも関わらず、それを横目で窺うようにして見ていた自分の心がずーんと沈んでいくのを実感した。

誰かに話して落ち着こうにも、気落ちしている時に気を遣わず接せる友人が部長会で呼ばれてしまったから、まるで陸の孤島に一人取り残されたような感じ。仲良しの友人が他にいないわけでもないけれども、こういうの話せるのは彼女だけだし。なんか、教室の一角に集まって笑顔でなんてことない話題で盛り上がるような、そういう気分じゃない。

「なぁ、今日堀ちゃん元気なくね?」
「確かに。言われてみれば、いつもより口数少ないような気がするよなー」

こんな気分の時に何かをしたくなるはずもなく。特に何をするともなく黄昏ていたものだから、ちょうど私の横の席でパンにかじりついているクラスメイトのたちの会話の中の堀ちゃん、なんて言葉にピクリと耳が過剰反応した。悲しいかな、自分の胸中の大部分を支配している人の名前を耳にしてしまったら、話の内容が気になってしまうのが人間のサガというもの。気分を落ち着かせるために部室に行こうと考えていたはずが、気が付いたら手元の携帯に没頭しているフリをしながら、隣の二人の会話に全神経を集中させていた。

堀が元気ないって、全然気が付かなかったような。というより、仲良くなってからそんなに月日は経っていないわけで、僅かな変化とかわからないし。そもそも私は堀のこと、そんなに知っている方じゃない。
例えば好きな食べ物とか。苦手な教科とか。そんな些細なことすら知らないという事実に、少しだけ胸が苦しくなった。

「最近はいつも長谷部さんと喋ってる癖に、アイツ今日やけにボーッとしてるじゃん」

いつも長谷部さんと喋ってる、かぁ。何気ない言葉に対して、ちょっとだけ緩んだ頬を手の平で隠す。第三者からそう見られているというのは嬉しくもあり、けれども今日は全然顔も合わせてないという事実を浮き彫りにされているようで悲しくもある。
自分から話しかければ良いものを。それすら出来ないなんて本当、意地っ張りというか情けないというか。

「喧嘩でもしたんじゃね?」
「堀ちゃんと長谷部さんが喧嘩?全然想像つかないわ、それ」

二人の視線がこちらに向いたのを感じて、さりげなく窓の方を向き直す。
確かに喧嘩っていうか、堀が何かを根に持つのはあまり想像できない。わりかしさっぱりした性格だし、偶に本気で鹿島にキレてる(蹴りを入れてる)のは見るけれども、なんだかんだで仲良しっぽいし次の瞬間にはケロッとしているし。見えないけど信頼感があるっていうのか、さっぱりとした丁度良い距離感で仲良しな二人。

あー、なんだか居た堪れない気持ちになってきたかも。さっきまでフワフワしていた気分は急降下して元通り。全く、何で私はこんなにグズグズ引きずってしまっているのかな、もう。
私は彼女のようにはなれない。だって置かれている立場も性格も年齢も何もかも、全然違う。所詮私はただのクラスメイトだし、偶々隣の席になった、それだけなんだから。そんな当たり前のことを痛感し、きゅうっと胸が締め付けられた。

「あーあ、何やってるんだろう、私」

もうやだ。意気地なし。大嫌い。私のバカ。ありったけのマイナス発言を自分に浴びせていたら、がくりと全身の力が抜けた。じわりと目頭が熱くなって視界がぼやけていって、世界が形をなくしていく。こんなことで泣くなんて卑怯だよ。別に泣くようなことじゃないじゃない。でも、情緒不安定になって無性に泣きたいときだってあるじゃない。嵐のような心中で自分自身に言い訳して、誰にも悟られないようにと机に伏せる。
泣くべきところじゃないって頭の中は結構冷静なくせに、一度涙腺が崩壊すると止まらない。ぽたりぽたり、小さく机を侵略していく液体。こんなの自業自得なのにバカなのは私なのに、別に堀に何かされたわけでもないのに。だけど止める術は知らない。こんな自分勝手な理由で泣いてるなんて誰に言えようか。

ああもう、降参。参りました。こんなの認めるしかないじゃない。好きだよばか、一挙一動に感情が思いっきり揺さぶられて、もうどうしようもないくらいに好きです。


好きと嫌いと無関心


戻る