「……というわけで、クイーンの買い物に付き合って城下へ行く。意義ある奴は死ぬと思え(精神的に)」
「(クイーンに瞬殺されるフラグですね承知した)」
月に一度、ロイヤルファミリーはクイーンのために城下へ出る。
彼女の生きる糧の一つであるBL本を買い溜めするのである。
ついでに、あくまでついでに自分達の買い物をするのだ。
「さぁ張り切って行ってみよおおおおおおおう!!!」
「なぁクイーンどうされはったん」
「俺は知らん。何も知らん。最早何も見えん」
「テンション上がってんなぁ……すげぇ」
城下の本屋という本屋を当たって、店に置いてあるBL本は各一冊ずつ買っていく。
荷物持ちは当然のことながら男衆である。
当の本人達からすれば、男同士がいちゃいちゃしてる表紙の本を持たされるのは複雑な心境だ。
遠くを見つめるその瞳は虚ろげで、表情にも乾いた笑みが浮かんでいた。
ただ一人を除いては――……。
「ポーンはこちらにいらっしゃい!」
「ぅえっ……!?またですかぁああ!」
ただ一人、ポーンだけはBL地獄から免れていた。
ただその代わりに、クイーンの着せ替え人形と化しているが。
「ねぇねぇポーン、このドレスすごく可愛い!貴方に似合うわ!」
「いやぁああああああ!僕は男ですぅううううううううう!!」
「(……どっちにしろ地獄やねんな)」
「あー、疲れた!」
「疲れただぁ?こっちの台詞だクソクイーンが」
「キング、言葉が乱れておいでですよ」
場所は変わって喫茶店。
暖かな春の日差しが差し込むテラスで一つのテーブルを囲んでいた。
次々にランチやら焼き菓子やら飲み物が運ばれてくる。
ロイヤルファミリーを相手にしてる割には店員も落ち着いている。
それだけ親しまれた王家なのだろう。
「今日はありがとうね、みんな」
満足そうなクイーンの笑顔を見ると、文句を言っていたキングでさえも黙ってしまった。
ばつが悪かったのか、ふいと顔を逸らす。
クイーンはそれを見て柔らかく微笑んだ。
穏やかな空気だけは読めるポーンが、にこやかに周りを見る。
ここぞとばかりにいい事を言っていじられキャラからの脱退を目指すポーンは、はりきって椅子を倒さんばかりに立ち上がった。
……が。
「ふぶっ!!」
つまずいて前のめりになり、目の前にあった大きなパフェに顔から突っ込む。
当たり前だが沈黙が流れる。ポーンが顔をあげて周りの表情を見ると、皆ぽかんと呆けていた。
「……ぷっ」
「ははははは!そりゃねぇわポーン!」
「馬鹿ですねぇ、ほんとに」
「傑作だな。とんだ喜劇じゃねぇか」
「あらあら、可愛い顔が台無しじゃないの」
ルークが吹きだしたのを皮切りに、次々と広まっていく笑顔と笑い声。
ナイトやキングでさえも、口では冷静なことを言っているが腹を抱えて笑っていた。
笑顔に溢れたロイヤルファミリーを見、ポーンは幸せな気分に浸る。
「えへへ、やっちゃいました」
「やっちゃいましたちゃうわー、ほんまにもう!」
ルークは笑いながらポーンの顔を拭ってやった。
「うぶぶ」と奇声を発しながらも、ポーンは素直に顔を拭かれている。
「マジで好きだわお前ら!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないのビショップ」
「先生以外はお断りですねー、私は」
「誰も仲良くして欲しい奴なんざいねェから安心しろナイト」
キングとナイトの喧嘩。ポーンのドジ。クイーンの暴走。先生のツッコミ。
すべて日常の風景である。
ルークは不意に彼らが遠くに感じた。自分だけが額縁の外にいる気になったのだ。
「(俺は一体何をしにここにおるんや――)」
春の風が、彼らの間をすり抜けていった。
時は止まってはくれない
100421
……………………
やっと1章終わりですはい。
ギャグかけなくなってきた。
これからが長いぞーんヾ(*´∀`*)ノ
これ絶対殺す気だってマジで