クレアは恋人なんだろう? その言葉はまるで当然と言わんばかりに問いかけられて、それにヴェイグは曖昧な返事しか返すことが出来なかった。別に明言したわけでもないというのに何故か周囲に広まってしまっているそれ。それは、ただただヴェイグにとって不思議なものでしかなかった。 違うから違う。本当のことを素直に言っているはずなのに、受け入れてもらえないというのはなかなか変な感じがする。 外の世界というのは、なにかしらにつけて名前を欲しがるらしい。 だからヴェイグとクレアの関係にも名前を欲しがったのだろう。正直関係の名前なんて考えてもみなかったヴェイグにとって、それは難しく困った問題であった。 そもそも、関係だとか、そんなこと考えたこともなかった。確かに、キラキラ輝く金糸を綺麗だと思ったことはあるし、微笑む姿を見ると自分も頬が緩むし、もっと笑わせてやりたいとも思う。 しかし、それは恋なんてものとは程遠いような気がした。難しい所ではあるが、つまるところ、恋人なんていわれても一向にしっくりこない。寧ろ、むず痒い、そんな気分になるのだ。 それでも名前を、と聞かれればやはりヴェイグは考えてしまう。うんうん、とその名前をひねり出そうと頭を抱え込んでいたら、優しいクレアがお茶の用意をしてくれた。柔らかい桃の香りに、ふっと心が安らぐ。 「少し休憩したら?」 そんなになってたら出てくるものも出てこないわ。 そういう彼女に促され、ティーカップを手に取る。彼女の言うことなら何でも聞いてしまうのは、昔からの癖のようなもの。結局、紅茶を口に含んで飲み干した後もその関係の名前について考えてはみたけれど、一向に答えは出てこなかった。 ただ、温かい紅茶に口を付けるとき『彼女には敵わない』そう思った。 ×
|