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ねがわくばかぎりなく

シャワー上がったぞ。
そう同室の彼に声を掛けてみたけれど返事は返ってこなかった。おかしいなぁ、と思いながらも、ティトレイは自身の緑色の髪をタオルを頭に押し付けながら、その姿を探す。すると、ヴェイグはベッドの上で既にうとうととしているようだった。
最近は野営が続いていたから、仕方がないといえば仕方なかったが、ならば先にシャワーにいけば良かったのに、とティトレイは思う。それでも先に行かせてくれたのは、彼の優しさからだというのはよく分かっていた。

起こさなければいけない。
そう思いながらもティトレイの動きは静か。ベッドのスプリングも余り軋ませずに、そろそろとヴェイグに近付いた。
少し俯きながら、小さく寝息を立てているヴェイグ。その目の下にうっすら残る隈は、見張り番をかって出た証しだった。そろり、とティトレイはその痕に指を這わせる。髪と同じプラチナの睫毛が震えるように揺れた。

「お前さ…もうちょっと頼れよ」
「俺、そんな頼りねぇかな…」

こつり、と眠るヴェイグの額に顔を寄せる。この中に詰まった、本音を、全て吸い取って聞いてやりたいのに、とティトレイは思わずにいられない。何でも抱え込んでしまう彼が、いつか氷が砕け散るように壊れてしまうんじゃないかと、それだけが怖かった。

「頼む…頼むから…」

俺の思いがこの中に詰め込まれればいいのに。そう思いながら、ティトレイはその銀糸をぎゅうと引き寄せる。
その端でうっすらと銀糸の隙間から覗いていたアイスブルーは、ただ静かに佇み、またゆるりと閉じられた。


(title by F')



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