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キスの甘さ 5

ちゅっ、と首筋に落ちるキスに身体が反応する。
触れたところがじんわりと熱を持つ。ひくり、と身体が跳ねると同時にさくらの目にはまた大粒の涙がたまっていった。
淡い期待と甘い感覚。それでも、その期待感を悟られないようにと、さくらは強く目を瞑る。ぎゅっと閉じられたその睫毛に涙の粒がついた。

「ったく。素直になれって、いったとこだろ?」

強く目を閉じてしまったさくらを見て、静琉は苦い、けれども酷く優しい声をだした。力を緩めれるようにそっと、目元にまた唇を落とす。
ゆっくりと開いた天色に自分の姿が映って、静琉はさくらの少しかさついた、でもやわらかい唇を奪った。
ぬる、と絡められる舌。ざらりとした部分が合わさるたびに肌が粟立ち思考をとろけさせていく。二人の隙間から洩れる吐息も熱に浮かされ甘かった。

「っ……ん、はぁ……」
「…さくら」

離れていくときのアルコールの匂いさえ愛おしい。
名前を呼ばれて、さくらは静琉の顔を見た。
彼も、十分に余裕のない顔をしていた。いつだって冷静で、そんな感情なんて微塵も表に出さないような顔をしている癖に。欲情の色を宿した目に少し荒くなった息遣い。自分しか知らないことへの優越感と独占欲がさくらの胸をじわじわと満たしていく。なのに、喉の奥でこもる熱に邪魔をされて、それがうまく言葉に出来ないでいた。想いを伝えるのはいつだって苦しいものだ。触れるところから、すべての想いが伝わっていけばいいのに。そう思いながら、さくらは覆いかぶさる静琉を思いっきり抱きしめた。ぎゅう、と抱き寄せられて漆黒の髪が静琉の頬に触れる。
「そんなにくっついてたら触れないだろ?」
力任せに引き寄せられて、静琉はクスリと笑みをこぼした。
さくらの肩辺りに置かれた手が、行き場を無くし、そっと髪に触れることぐらいしかできない。癖のないさらりとした髪を撫でれば、更にさくらの腕に力が入ったようだった。

「…かった」
「ん?」
「…寂し、かった!」

言葉が涙を呼んだのだろうか。さくらの声はまた涙声になっていた。
先程のように過呼吸のようになることはないようだが、溢れる涙を止めることは出来ないようだった。頬を伝った涙が静琉の頬にも伝い、濡らす。頬を伝ってきたそれは、静流の元に届くころには冷えていた。
抱き寄せるさくらの腕をやんわりとほどいた静琉。あ、と名残惜しそうに目線で追ったさくらに『別にどこにも行かない』と少しおどけるように笑って見せた。


「俺も、寂しかった」
「…ごめん」
「ごめん、か…」

言われてしょぼくれるさくらに静琉は小さくため息をつく。自分は寂しかったといわれて嬉しかったのだ。馬鹿みたいに溢れる独占欲がその一言で満たされた。だから、そう言い返したのに。
さくらの、ほどかれて行き場を失った手を取る。チュッチュッと、指先にキスをすればさくらの視線がしっかりと静琉を捉えた。
その無防備な姿に胸に小さな炎がついた気がした。それに、だ。どうせだったら自分の同じ気持ちを、さくらに口にしてほしい。そう思うのは静琉のちいさな我儘だった。

「ごめんよりは、好きのがいいな」

ちゅ、と掌へキス。
掌へのキスは懇願って意味があったなぁ、なんて考えながら唇を放せば、さくらの頬に先程とは違う赤がさしていた。
は、と口が開いたときにチラリと見える赤い舌。
それが、その先を紡ぐのをじっと待つ。

「す…き、好きだよ。大好き」

すき、と期待以上に多くの言葉が紡がれる。
言うさくらの睫毛が濡れて、震える水滴に見とれた。
今日は特に良く泣く恋人の涙を顎に達するまでに舐めとれば、恋人は困ったようにふふっと笑って見せた。

「そんなにしたら、恥ずかしいよ」

くすぐったいし、と付け足してみたが静琉は全く知らん顔で。そのまま目頭のところに残った涙まで舐めとっていく。

「いまからもっと恥ずかしいことするんだから」

我慢しろ、と服の裾から滑り込んだ掌に、さくらはまた静琉の首に腕を回した。


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