(( 名前変換 ))



ある一言。
本当にたった一言だった。
その何気無い一言が、俺の人生を変えたなんて誰が信じようか。
三年生になりまだ一ヶ月と少し。
朝登校して来て間もなく、何故か俺は数人の女子に取り囲まれている。
ここは教室のドア前、取り敢えず中に入れさせて欲しいと思っていた時だった。


「邪魔なんですけど」


後ろから聞こえた声。
明らかに怒気を含んではいるが、酷く落ち着いている。
振り向けば同じクラスのみょうじさん。
邪魔と言うのは当たり前だ、ここは教室のドア前。
そして自分の周りに集まる女子の数。
通行の邪魔になっているのは明らかで、怒らない方が可笑しいと思った。


「あぁ、すまんなみょうじさん。今避けるわ」

「謝るくらいなら初めから其所で屯ってるんじゃないし」


彼女の一言で教室中が静まり返った。
普段そんな事を言わん子であったためか、意外過ぎる言葉に全員が唖然としたのだろう。
勿論自分もその一人だ、当の本人はそんな事は気にもせずに仲の良い友達(仮にAさんとしておこう、名前はまだ覚えてない)の元へと向かって行き、おはようと挨拶している。
Aさんの方はと言えば苦笑いだ。


「何あれ、もう少し言い方考えてもええやんな」
「ホンマにな。白石くん、気にしたらアカンよ?」


俺の事を気にかけてか声を掛ける女子達。
だが彼女らの声は俺の耳には届いていなかった。
そう、全ての向けられるもの全てがある人物に向けられていたためだ。
怖じ気付く事なく堂々と注意出来て、尚且つ強気な態度で周りを一掃した彼女に。
周りの女子生徒には目もくれず、席に座ったみょうじさんの元へ向かった。
きょとんとした表情で俺を見上げるみょうじさんに、何とも言えない気持ちが込み上げる。

「おおきに、助かったわ」

「え、いや…お礼言われる事してないし。寧ろごめんなさい」

「ちょっ、謝らんといて。絡まれてたんから脱け出せたんや、ホンマ感謝しとる」


最後の言葉で彼女はやっと理由が分かったのか、小さくどう致しましてと呟いた。
絡まれてたんも助かったんもホンマの事や。


「けど普段大人しいみょうじさんがあんな言うからびっくりしたで」

「…偏見、私普段からあんなだし」


ね、と振り返りAさんに聞けば、聞かれた彼女は苦笑しながら首を縦に振った。


「普段は本当にいい子なんやけど」


そう言われたみょうじさんは少し機嫌を損ねたような表情をした後、机に突っ伏した。
そしてその後ろで再びAさんは苦笑したのだった。
彼女を知ったその日から俺の日常は劇的に変わっていったのだ。
告白の定番と言えば、学校の中庭、裏庭、屋上、体育館裏(?)だろうか。
全ての場所に呼び出され、そこで全ての女子生徒の勇気ある告白を受け、断った。
断ったと言っていいのだろうか、自分でも少し期待を持たせてしまったような断り方だったような気がする。


「白石への一向に減らない告白フィーバーの理由が分かった」


頬杖をつきながらポッキーを口に含む目の前の女性、あの日から仲良くなったなまえだ。
あの日から俺の興味は彼女に持っていかれ、何かあるたび話し掛けてきた。
彼女も徐々に心を開いてくれて、今は遠慮も無しに話してくれる、ちょっとキツい事言われるのも屡々。
だが彼女と居る時の俺は、少しだけ素の自分で居れる気がした。


「その理由って…?」

「だってさ、気持ちは嬉しいありがとー、なんて言われたら誰だって勘違いするでしょ。考えが甘い」

「そんな棒読みとちゃうけど、けど君とは付き合えんて言うてんで?」

「…はっ」


鼻で笑いやがった。
俺を見下すような目で見てきた後、ポッキーを突き出し立ち上がれば、それが甘いんだと言いながらポッキーを頬に刺してくる。
チョコ付いたやん。


「嘘も方便、好きな子が居るから期待するだけ無駄!って思わせちゃえば?」


横で聞いてたAさんが口を挟む。
それで問い詰められるんは俺なんやぞ。


「甘ーいみっちゃん」


Aさんはみっちゃんらしい。
今まで名前を知らなかった俺は一体…


「今時の女子なんかね、そんな子よりも私のがいい女アピールするもんだよ」

「た、確かに…」

「だけど使えなく無いかもね」


ね、と可愛らしく笑う彼女に少しドキッとしたのは内緒だ。


「分かった、それ次から使ってみるな」


なまえは本気で考えてくれているのか否か。
だが彼女の考えは採用する事にした。
俺の企みを彼女は気付いてはいないだろう。









──
───









「白石!」


朝練が終わって教室に入室と同時に退室させられる。
原因は俺を引っ張るなまえだ。
焦燥、憤怒を身に纏っているかのようにひしひしと感じる彼女の様子。
腕を引かれ渋々着いて行けば、人影のない階段前。
足を止めるや急に振り向き肩を揺さぶってきた。


「どういうつもり!?」

「何の事かさっぱりやな」

「何であたしが白石と付き合ってる事になってるの!?」

「嘘も方便やろ」

「嘘の度合いが過ぎてるっての!」

「ほな嘘や無くすればいい?」

「っ…!?」


真剣な眼差しでなまえを見つめれば口を閉ざす。
今にも泣き出しそうな彼女が可愛くて愛しくて、思わず抱き締めたくなる衝動を抑える。


「なまえと一緒居るんめっちゃ楽しいし心地良い、いきなりで戸惑うかも知れんけど、なまえに惹かれてたんは事実や」


告白がこんなにも勇気が必要で怖いと初めて知った。
今まで自分がしてきた行為に多少罪悪感を感じる。


「…今の噂、弁解するなら…」

「それって」

「だから、さっき告白しましたって皆にちゃんと言えたら受け入れる!」


耳まで真っ赤になったなまえが愛しくて愛しくて、今度は自分を抑える事無く抱き締めた。


「…あたしが女子に苛められたら白石のせいだからね」

「そんな事させんて、今度は俺がなまえを助けるヒーローになる番や」

「今度はって…?」

「秘密」

「意味分かんない」

「とにかく、なまえを護るんは俺だけっちゅー事や」


教室に戻るべく離された身体に寂しさを感じつつも、そのまま握られた手に自然と笑みが溢れた。
今度は偽りのない心で堂々と紹介出来る、隣で笑う彼女を。








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