過去ログ | ナノ
「ハッピーバースデー!」
「……あぁ」
「―――…あれ、」
冬獅郎のいつもと違う反応で名前は思わず拍子抜けしてしまった。いつもなら「煩ぇ」って怒るのに。今日はなんだか疲れたように虚ろな目をして筆を滑らせていた。不安になって冬獅郎の顔を覗き込む名前。しかし冬獅郎はそれにも「何だ」と低く疑問形ではない疑問を投げかけるだけだった。
「いや、あの…どうしたの冬獅郎」
「別に。何もない」
「…?」
いつもの冬獅郎ならもっと否定的で必死で、でも暖かく反応してくれるのに、今日は否定するにも力無く、拒むこともせずただ呆然と答えるだけだ。名前の不安は益々倍増していく。何かあったのだろうか。どこか具合が悪いのだろうか。解決出来ない悩みでもあるのだろうか。悩みながら名前はどうにか冬獅郎をいつも通りに戻そうと試行錯誤してみるものの、冬獅郎の様子は一向に変わらなかった。
「………どうしたの冬獅郎。本トに」
「だから何でも――」
「なんでもなくないでしょ!」
いきなり張り上げられた名前の声に流石の冬獅郎も目を丸くする。彼女を見ると、その目には大粒の涙。冬獅郎は驚きのあまり筆を落とした。
「何…泣いてんだよお前」
「だって…冬獅郎が変だからっ、心配なのに冬獅郎が頼って、くれないからっ」
「待てよお前、ちょっと落ち着け」
「無理ーっ冬獅郎のバーカ!」
「ば、バカとか言うなっ」
おどおどとしながら冬獅郎は自分の死覇装の裾で彼女の涙を拭う。それでも溢れ出てくる彼女の涙を、今度は名前自身が自分の死覇装で隠すようにしながら拭き取った。若干赤くなった目元を見て、冬獅郎は申し訳なさそうに俯いた。
「…すまない、名前」
「なんで謝るのっあたしが悪いんだよいきなり泣き出したりしてさ!ごめん、びっくりしたでしょ」
「いや、気にするな」
そう困った様に笑った彼の顔がいつもと変わらない表情で、名前はふと胸を撫で下ろす。なんだ、病気にでもかかったのかと心配しちゃったよ。そう思って名前は思わず苦笑した。
「―――最近疲れてたみたいだ、頭がボーとしてた」
「冬獅郎仕事熱心だもんね」
「サボり魔の誰かさんとは違うんだよ」
「煩いなぁ」
いつものように皮肉を言い出す冬獅郎の姿に無意識に笑みがこぼれる。慣れた手つきで書類に判を押していく冬獅郎を見ると、名前はいきなりポンと手を叩いて立ち上がった。
「誕生日プレゼント」
「――…はぁ?」
「冬獅郎に誕生日プレゼントあげる」
「なんだよいきなり」
誕生日プレゼント?そういやさっきそんな類の事叫んで入って来たな。冬獅郎が今日は自分の誕生日だと思い出して納得していると、名前はもう既に行動に移っていた。冬獅郎が座る椅子の隣に立つと名前はいきなり「立って」と冬獅郎に言い放った。
「なんでだよ」
「いいから」
「俺には仕事があるんだ」
「知ってます!だから早く立って!」
「―――…?」
疑問を持ちながらも彼女の言葉に素直に従った冬獅郎。すると名前は冬獅郎が立ち上がった椅子に勢いよく座ってしまった。自らの仕事場を奪われ、冬獅郎は眉をひそめた。
「…何してんだ」
「今日はあたしがこの仕事引き受けるから、冬獅郎はそこで休んでて」
「はぁ?」
「いいから、休んでて」
「お前その書類の事分かんのかよ」
「零番隊長をなめてはいけません」
これが誕生日プレゼント。そう笑う彼女はいつもとは違う仕事に向かう目をしていた。稀にみる彼女の姿に冬獅郎は目を疑ったが、自分も相当疲れていることは自分が1番知っていた。このまま仕事をやっていてミスが出たりしたら取り返しもつかない。今日の所は彼女の言葉に甘えることにした。
「じゃあ、頼む」
「はいな!冬獅郎は大人しく休んでてよ!誕生日くらいゆっくりしてもバチは当たらないから」
「………ああ」
筆を手放してソファーに横たわる。殺風景なこの天井が視界に入り、毎日この下で仕事をしているというのに久々に見た気がしてなんだか虚しくなった。不意に自分の机に目を向けると、そこには名前が真面目に書類を読んでいる姿。珍しい光景に思わず笑いが込み上げて、今まで心にしこりの様に残っていた不安が全て溶けていく気がした。それと同時に一気に眠気が襲ってきて、冬獅郎は流れに身を任せるように瞼を閉じた。
静かな執務室に冬獅郎の規則正しい寝息がBGMの様に空気を漂っている。キリのいい所で筆を置いた名前は、1度伸びをすると、ソファーに寝る冬獅郎に目を向けて優しく微笑んだ。
「お疲れ様、冬獅郎。誕生日おめでとう」
その声が聞こえたのか聞こえていないのか、彼女がまた席に座り筆を手に取ると眠っている冬獅郎の顔が自然と微笑みを浮かべた。
ハッピーハッピーバースデー
(形のないプレゼントを君に)
091220
長いwwwwww6000文字とか長いwwwww
それだけひつへの愛が深いんだよ(いいように解釈
またも原作沿い設定使っててすみません^p^ヒロイン好き過ぎる私。