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「――――…名前」


闇に染まった白い壁が月明かりを青く照り返した瀞霊廷のある一角に、彼女の姿はあった。俺は彼女の名を呼んでその歩みを引き止めた。いつもなら即座に飛び付いてくるぐらいの彼女が振り返り返りもしない理由は分かっていた。





「……俺らを、裏切るのか」

「―――……そうだと言ったら?」





彼女の口から発せられた明白な“反乱”の意。予想はしていた事だったが、本人から直接聞くのはやはり堪えた。その声には全く揺れはなく、ただいつもより周りな静かな分、凛と耳に響いた。


「誰から聞いたの?」

「藍染。仄めかしてただけだが」

「あーあ。あたしが言ってびっくりさせようと思ってたのにっ藍染隊長の意地悪っ」


彼女の調子はいつものままだ。だが一向に振り返ろうとはしない。それだけが俺の心を不安でいっぱいにさせた。何故振り向いてくれない。何故俺を見て話してくれない。どんな話でもいいから、こっちを向いて言ってくれないと信じようがない。いや、信じられない。お前の言葉は全て信じてやりたいのに。そんな心の叫びを口にすることはせず、ただ俺は彼女の背中を見ていることしか出来ずにいた。彼女にしてみれば俺が引き止められず戸惑っているように見えたかもしれないが、そうじゃない。ただお前の異変を受け入れられずにいるだけなんだ。


「引き止めないの?」

「引き止めて欲しいのか?」

「別に。だって冬獅郎が止めたってあたしは行くもん」

「…だろうな」


引き止めたいに決まっている。お前がどんなに抵抗しようとこの世界に留まらせたいという気持ちを押し殺して、今ここに立っている。なのにそんな試すような事を言うなよ。嫌でもお前の本当の気持ちが分からなくなっていくのだから。


「……そろそろ行かなくちゃ」

「………」


一つ一つの沈黙がお前に勘違いをさせてしまうような気がして胸が痛い。こんなにも俺はお前を信用しきっていたなんて今初めて実感した。お前の顔が見えないだけで、こんなにも不安になるなんて思いもしなかった。ゆっくりと歩み始める名前の背中に無意識に目を細めると、壁から反射した月明かりが一層目にしみた気がした。




「次逢う時は、敵同士だね」




ベタだな、と呟きながら月を見る彼女の姿を、後ろから見ているしか出来ない自分がもどかしかった。どうして、何故今俺は彼女を止めに走らない。どうしてこの足は動こうとしないのか。焦燥が身体中を駆け巡り、彼女の名前を呼ぼうにも喉に空気が通っていかなかった。ふぅ、とため息をつくと、不意に彼女が足を止めた。ふわりと彼女の死覇装が舞う。嗚呼、俺は止めることも出来ずまま彼女は去っていくんだ。そんな事だけはあっさりと脳が飲み込んでいくのを感じるていると、目の前の彼女を見て俺は無意識に目を見開いていた。宙を舞いながら彼女はこちらを向いて涙を流している。彼女の唇が優しく、聞こえない最後の言葉を俺に告げると、さっと砂が風で飛ばされるように自然に、名前の姿は消えていた。















(君の表情が見えても、信じたくない現実が俺を攻め立てた)

























091213
ひつが…弱いorzorzでもたまにはこんなひつも愛すべきだ私。新境地開拓よ咲子。堪えろ、堪えるんだ。

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