過去ログ | ナノ






静寂に包まれる尸魂界。月と少しの星が建物を照らし、薄い影を作っている。寝台から起き上がった彼女にもまた影が出来ているが、他とは別の、何処が儚げなものを感じさせた。


「月、綺麗だね」


彼女の体には無数の傷を隠すように包帯が巻かれ、見るからに痛ましい。本当は起き上がる事さえ困難な筈だが、彼女がどうしてもと聞かなかったのだ。


「…あぁ」


白い部屋は拒むことなく夜の闇を飲み込んで、もう壁に元の白さはない。窓から差し込む光だけが、彼女の顔を綺麗に照らしている。白さが増したように思えるのは俺だけなのだろうか。彼女は元々肌が白いから今となってはよく分からなかった。


「桃ちゃんは?」

「お前が寝てる間に来た。もう普通に生活出来るらしい」

「…そっか」


先日の任務で、雛森と同行することになった名前は、不意を突かれた雛森を助けて傷を負った。間もなく任務は終わったものの、予想以上に彼女の傷は深かったようで、今も療養中の身だ。


「…何度も、お前に謝ってた」


眠る名前に向かい、泣きじゃくりながら謝罪を繰り返していた雛森。任務において傷を負うことは茶飯事だが、戦いを嫌う彼女にとっては相当なショックだったのだろう。誰が宥めても彼女は“自分の所為だ”と言い続けていた。


「―――…桃ちゃんらしいな」


名前は雛森を責めるつもりなんてない。それでも気にしてしまうのは雛森の性格なのだろうと、彼女は苦笑した。どうやら雛森の姿を想像しているようだった。


「桃ちゃんとこ、行かなくていいの?」

「何で雛森の所に」

「桃ちゃん淋しがってるかもよ?」


いつも通りに努めていても、やはり傷が軽くない為、彼女が無理をしているのは目に見えていた。わざとらしく笑って言う彼女に心臓を掴まれたような感覚を覚える。やっぱり、名前は俺が雛森を好きだと思い込んでいるのだ。撤回しても真意を問い詰められるのは面倒だと避けてきたが、いつまでも勘違いされたままなのも辛いものがあった。
俺は、俺が本当に大切なのはお前だというのに。


「ねぇ冬獅郎」

「…なんだ」

「好きだよ」


いきなり告げられた言葉に目を見開けば、小さく笑った彼女がこちらを見ていた。穏やかな表情の彼女は、今にも消えてしまいそうだった。再び窓を見ると、彼女は立てた寝台に寄り掛かって言った。


「あーあ、最後に桃ちゃんに1回挨拶したかったな」


笑う声に力はなく、ただ闇に沈んだ部屋に溶けていくだけだ。どうしようもない苦しさが襲う。強がる彼女の姿は、まるでこれが最後であるように思わせた。


「まぁでも、冬獅郎に会えたから、いっか」


徐々に彼女の声が小さくなっていた。終わりを匂わせる言い方に、心臓が締め付けられる。なぁ名前、そんな言い方するなよ。まるでもうすぐ死ぬみたいに言わなくても、お前はまだ死なないだろ。そのうちケロッとまたそこ辺りを走り回ってるんだろ。なぁ、名前。

俺はまだお前に想いを伝えてない。



「…月、綺麗だね」



詰まる言葉の一言も言えぬうちに、彼女は安らかに瞳を閉じた。

















(咲くこともなく)






















101007
Moments/浜崎あゆみ:癒月様リク
切甘とかいってうっかり死ネタ^p^p^gdgd感ごめんなさい

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