過去ログ | ナノ
「寒っ」
出来るだけ体温を逃がさぬようにかじかむ手を擦り合わせながら雪道を進んで行く彼女の後ろで俺は白い景色の中を歩いていた。どの建物も屋根には雪が積もり白く染め上がっている。その中で一際映える彼女の赤いコートと短い死覇装から覗く足、黒いブーツが誰が付けたかも分からないまばらな足跡の上にまた彼女が足跡を重ねるごとに、この白い世界も現実なのだと教えてくれた。
「さむー」
「お前が出かけるって言ったんだろ」
「だってどうしてもあそこの団子が食いたかったんだもん」
「俺が巻き添えをくらう意味が分からない」
「じゃあついて来なきゃいいのに」
来いって言ったのは誰だったかな。そう思ったが今更そんな事を言ってもまたイラッとくる言葉を返されるだけなのだろう。俺は敢えて口に出さなかった。
「やっぱり寒さに強いね冬獅郎、流石氷雪系最強」
氷雪系最強と言われるが、実際人より寒さに強いとかそんな事はあまり無い。寒い時は寒いし、それによって外に出たくないとか人並みの感覚はあるつもりだ。わざわざ反論しなかったというのに彼女が吐いた皮肉るような言葉に結局俺は苛立ってしまう。そんな彼女の性格を分かっていながらもついて来たのは間違いなく俺自身なのだが。自分の性にそろそろ嫌気が差す。はぁ、と息を吐くと白い空気がふわりと消えた。
「冬獅郎」
「……今度は何だよ」
「あたしが居なくなったらどうする?」
「…はぁ?」
いきなり考えた事もない事を問われて瞬時に脳が混乱に陥る。彼女が立ち止まったのを見て、そのままの距離で俺は足を止めた。こちらを向かない彼女。意味深な言葉が頭をぐるぐると回って戸惑う。
瞬間、冬の冷たい風が俺と彼女を包むと、彼女はその風に体を任せるようにしてふわりと振り向いた。いつもの笑顔の彼女と、冷たい空気がぐちゃぐちゃしていた思考がはっきりさせた。
「――…お前は居なくならない、だろ」
「………大正解。流石冬獅郎」
にかっと笑った表情が彼女の存在を肯定していく。一瞬俺の中に沸き起こった不安が一掃されていくような感覚。再び歩き始める彼女の後ろ姿を見ながら、俺は少しだけ彼女との距離を縮めて歩いた。
「じゃああそこのお店まで競争ね、よーい!」
「は!?おまっもう走ってんじゃねぇかよ!」
「どん!」
儚い 白 さに溶けてしまわぬように
(今までもこれからも俺はそれを追いかけて、寄り添って歩く)
100130
「その恋、何色」シリーズ。
“白”で日番谷。シロだからひつとかな訳じゃなく考えてたらこうなったっていうか(´Д`;)うぐうう