過去ログ | ナノ
「空が青いねぇー」
「何言ってんだお前」
窓から空を見上げ、名前は呟いた。いきなり突拍子の無いことを言い出した彼女に対し、冬獅郎はいつものように冷たくあしらう。
「何、冷たい」
「サボりに来たやつをわざわざ暖かく迎える制度は十番隊には無い」
「うわ、いつにも増して冷たい」
口を尖らせて拗ねた様に言う彼女だったが、冬獅郎はそんなのお構い無しに自分の仕事に向かっている。折角遊びに来たのに。とつまらなそうに呟くと、また名前は空を見上げた。
「姉様は?」
「現世。もうすぐ帰ってくる」
「ほう。任務で?」
「遊びに行くわけないだろ」
「姉様ならやりかねないぜ」
「…」
名前の言葉に押し黙る冬獅郎だったが、流石に松本はそんなことしないだろ、とまた筆を走らせる。どうかなー?と笑う名前だったが、冬獅郎の反応が無いのを確認すると、またつまらなそうに口を尖らせた。
「…冬獅郎って仕事熱心ね」
「これが普通だ」
「そうかなぁ」
「お前がサボりすぎなんだっつの」
不機嫌に言い放つ冬獅郎だったが、どうやら名前を追い出すような事はしないようだ。多分これはそんな事しても無駄だと諦めているといった様子。また呆然と空を見ている名前に、冬獅郎は眉をひそめて問った。
「お前さっきからそんな空見て何してんだよ?」
「いや、青いなって思って」
「それはさっきも聞いた」
「だって他に何もないもん」
「そんな事してて面白いか?」
「いい暇つぶしよ」
「…だろうな」
そりゃ暇潰し以外何かあるんだったらそっちの方が驚きだ。特に名前の場合。
「この世の空には何があるんだろうねぇ」
「…また訳の分からん事を」
はぁ、とため息をつくと、冬獅郎は筆を置いて彼女を見る。さっきとなんら変わりない名前の姿。彼女はまた口を開いた。
「…現世では死者は空にある天国に行くって言われてるんだって」
「実際はここと地獄しか無いけどな」
「尸魂界で死んだら何処に行くんだろうね」
「…」
尸魂界では肉体は霊子になって建物や空気の一部となって存在し続ける。それは現世での“土に還る”と同じようなもの。
なら心は?
心は何処に逝く?
「わかんないなぁ」
アハハと笑う名前。考えたこともない、否、考えないようにしていた疑問に複雑な感情になりながら冬獅郎はそんな彼女を見ていた。
「ま、いっか。要は死んでからのお楽しみだよね」
名前はニコッと笑って即座に立つと、ゆっくりと歩いて出口に向かいだす。名前のいきなりの行動に冬獅郎はその後を目で追いながら問った。
「帰るのか」
「姉様迎えに行ってくる」
「そのまま帰れ」
「やーなこったー」
軽い返答に苛立ちながらも名前を見送る冬獅郎。お仕事頑張って、なんて他人事のように言いながら去っていく名前を睨みながらその扉が閉じるのを待つ。パタンと扉が閉まりきるのを確認すると、冬獅郎は小さくため息をついた。
「…死んでからのお楽しみ、か…」
ぽつりと名前の言葉を思い出して呟く。自分もいつかこの世界で死して逝く世界。そこが何処かは今生きている自分には分からないが、きっと殺風景で寂しい世界なんだろうと適当な予想を立てる。護廷十三隊とか、隊長とか副隊長とかそんな階級もない、ただ殺風景な薄暗い世界。
筆を持とうとした手を一旦止めると、冬獅郎は名前の見ていた窓から空を見た。
「…空が青いな」
今の考えを全部吹き飛ばしてしまうような雲1つ無い、真っ青な空を見て、何と無く微笑みが零れた。
群 青
(死ぬ時はこの青を目に焼き付けて)
091112
なんかよく分からんけど群青聞いてたら出来た。福ちゃん好きだ福ちゃん。