過去ログ | ナノ


金属が擦れ合う音。対峙した俺と名前。複雑な心境。あまり良いとは言えない天候の元、俺は彼女に刀を向けていた。罪人である、彼女に。


「戻れ名前!」

「嫌って言ったら?」

「言わせない――!」


再び周囲にギチギチと刃と刃が擦れる耳障りな音が広がる。グッ、と込められた力の反動と共に後ろに退いた俺は、少し距離の出来た彼女の姿を複雑な思いで見つめていた。
“殺人”という罪を犯し、牢獄に居たはずの彼女。 それが今ここに立っているという事実は、彼女の罪がまた1つ増えた事を意味していた。


(看守が無事な訳ない、よな…)


手足れの名前に付く看守は、それ以上の手足れである必要がある。しかし、そんな存在など極僅かである事ぐらい瀞霊廷中の死神が知っていた。そんな甘さが引き起こした事態、きっと揉み消されるのだろうが。
護廷十三隊は“完璧な集団”でなければならない。ミスでもあろうものなら、部隊総出で無かった事にされるのだ。“完璧”など曖昧なモノを目指す為に、そんな偽りやごまかしを繰り返した上に成り立っている。俺も看守達も、そして名前も、そんな存在の中の一部だった。
そんな一部から、彼女は今、抜け出そうとしている。


「…なんで殺した」

「あたしの邪魔してきたから」

「脱獄のか」

「半分当たり」


刀を肩にかけながら、名前は薄く笑みを浮かべながら呟いた。昔から彼女は自由奔放だったが、人殺しをするような非人道的なヤツではなかったはず。裏切られたような消失感を感じつつ、俺は名前に向かい刀を構え続けた。


「この世界は灰色なの」

「どういう意味だ」

「完全な正義が白だとしたら、この世界は灰色」

「……」


前々から流魂街と瀞霊廷の差を気にしていた名前。第1地区であったとしても決して裕福とは言えない外の世界と、完全な上下関係と共にそれなりの生活を約束された内の世界。外の世界から来た俺には随分身近に感じられる問題だった。
流魂街では生活するだけでも一苦労だというのに、やましい事は力で揉み消しながら外の事など一切気にかける様子もなく威張り散らす瀞霊廷。一度気付けばその荘厳なイメージは一気に崩れ去る。
しかし、正義を完全に否定出来ないのもまた事実。複雑な正義とも悪ともつかない組織。それが護廷十三隊の実態だ。


「ねぇ、見逃してよ」

「出来ない」

「もし今あたしを逃がしてくれれば、冬獅郎だけは助けてあげるよ」

「―――…何をするつもりだ」

「何って」


平然と言葉を紡ぐ名前。肩で刀をバウンドさせながら、彼女は声を低くして言った。



「壊すんだよ、この世界を」



シュン、と視界から彼女の姿が消えたかと思うと、後ろから刃を振り下ろされる。ギリギリの所でそれを受け止めて、体勢を立て直すと、彼女はまた明るい口調に戻って口を開いた。


「さぁ、どうする?冬獅郎」

「――…断る…!」

「そう、…残念」


振り絞る様な俺の反論に、名前は切なげな表情で軽く言葉を返す。それに一瞬気を取られた俺は隙を突かれて一気に間合いを詰められてしまった。その細腕のどこにそんな力だあるのか、押さえられた刀は動かず、俺は成す術を完全に見失った。
不意に彼女の顔が近付いてきて、その瞬間、俺の中に走馬灯のような“何か”が流れ込んでくる。過去の記憶、思想、考え方、今まで生きてきた意味、戦う理由。何故死神になったのか、何故今ここに立っているのか。
今彼女に伝えなくてはいけない、何か。


(名前が居ない世界に、俺が戦う理由があるのか…?)


時が止まったような感覚に捕われながら、俺ははっきりと彼女の別れの言葉を聞いた。



「上辺だけの正義じゃ、あたしは裁けないよ」
















(白なんて存在しないのだから)

























100827
ああ…やっと…出来たけど…長いっていうか…久しぶり日番谷さん…元気してた…?←
反逆ヒロインたのしすーヽ(´∀`)ノでもどうしても原作沿い設定引きずりたくなる我の性。
タイトルは某曲。
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