過去ログ | ナノ






「青い薔薇って有り得ないんだって」

「……へぇ」


こんな深夜まで彼女が居る事は珍しかった。半月が浮かぶ空を眺めながら、名前はそう呟いた。彼女にしては意味ありげな言葉に、俺は無意識に反応してしまう。


「あたし青好きなのになぁ」

「無いものは仕方ないだろ」

「薔薇には青い色素を作る事が出来ないんだとかどうたらこうたら」

「結局お前は曖昧だな」


変わらず窓から空を眺める名前の姿をちらりと確認しながら、俺は後少し余った書類に筆を滑らせる。窓際に彼女が居るのはいつものことなのに、時間帯がそうさせるのか、どうしても違和感を拭えない。彼女は花の様に明るいイメージなのもあって、闇に染まった暗い空の中に居るのが不思議で、それがある意味いいバランスとなって美しくも見えてくるのだ。なんとも不思議な感覚に捕われて、俺は一瞬筆を止めた。


「もしも、さ」

「……」

「もしも、あたしが居なくなったらみんなどうなるんだろうね」


いつも自分が世界の中心であるような彼女にしては珍しい発言だった。まぁいつものテンションで今と同じセリフを言っていればただのナルシストにしか聞こえなかったかもしれないが、今日はそうじゃなかった。いつもより暗い雰囲気の名前に内心戸惑う。一体どうしたというのか。


「冬獅郎は、どう思う?」

「え…」


質問のベクトルが一気に俺に向く。驚きと共に頭が真っ白になって言葉が詰まる。名前が居なくなったら?いつもなら“清々する”とか軽口を叩く所だが、今はそういう空気じゃないのが嫌でも分かる。
見慣れた筈の暗い空が何と無く怖く思えた。


「青い薔薇の花言葉は“不可能”」

「―――…」

「なるほどって思わない?」


クスリと笑いながら呟く名前。答える事が出来ない俺を見て一息つくと、流れるように立ち上がって俺の目の前まで進む。そして彼女は何処からともなく一輪の花を差し出した。


「――…青い、薔薇…」

「やっぱりそう見えるんだ」

「え…」

「何でもない。こっちの話」


意味深な言葉を告げながら、彼女はその薔薇を俺に手渡す。何処からどうみてもただの花、ただの“青い薔薇”だ。彼女は数秒微笑んだ後、クルリと踵を返して出口に向かった。


「…帰るのか?」

「今日の所は。仕事の邪魔しちゃってゴメンね」

「…あぁ…」


扉に手をかけると、そのまま何事も無かったように開く彼女の姿に、言い知れぬ違和感を覚える。今まで彼女が俺の仕事を邪魔して、謝った事があっただろうか。それだけではない。今の彼女は、無理に笑っている気がした。


「…名前…」

「じゃあね冬獅郎。仕事、頑張って」


パタリと閉められた扉を見つめながら、どうしようもない不安が渦巻く。


(青い薔薇の花言葉は“不可能”)


彼女が何を伝えようとしたのか、誰よりも彼女と一緒に居た時間が長いと自負していた俺には、理解出来ない事がとてつもなく不安だった。


「―――…名前」


無意識に呟いた彼女の名前に呼応するように、彼女から貰った青い薔薇がパキリと音を立てた気がした。花では有り得る事のない、鏡が割れるような、儚い音だった。
















(君を引き止める事は不可能だったんだろうか)

























100629
個人的には“古城が堕ちる”の前編的なイメージで書いたんですが…なんだ…自分の表現力乏し過ぎて泣ける…話だけじゃ内容を伝えきれない…ぐふ
藍染が鏡花水月で作った青い薔薇をヒロインに渡して、“君が私から逃れる事は不可能だ”的な事を言って、ヒロインがその花を使って“あたし達が一緒に居ることは不可能なんだ”ってのを伝えようとしてる、みたいな。説明長いな。
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