過去ログ | ナノ






「あのさ、冬獅郎」


いつも通りサボりに来た名前の口から出てきたのは、いつもより暗くて低いトーンの言葉だった。何かと思って目線を彼女に向ければ、いつもより深刻な顔をして、いつも通りソファーに寝転ぶ姿が見える。たった一言発しただけなのに違和感を拭えない。筆を持ち直しながらも反応を忘れていると、彼女はまた変わらないテンションでぼそり、と呟いた。


「あたしの何処が嫌い?」


彼女にしては随分ネガティブな発言だった。どうした、と問うが別に、と答えられるだけ。一体何があったのだろうか、少しだけ不安をになり思考を働かせるものの、今は彼女の問いに答える事以外に出来る事が見当たらなかった。
それに、思い起こせばこんな事が前にもあった気がする。あの時は何も無かった癖に鬱になってみただけだった。今回もそうだといいが、予想を付けられないのが彼女の面倒なところだ。


「お前の嫌いなところか」

「うん」

「…ありすぎるな」

「……やっぱり」


素直に言えばまた落ち込む名前。より深く沈む彼女の様子がソファー越しに感じられる。仕方ないだろ、と言ってやればアバウトだ、と半ば文句のように小さく呟く彼女を見て、どうせ気まぐれなのだと少しだけため息。筆を滑らせながら俺はまた口を開いた。


「まずサボるところ。いちいち十番隊舎まで来るところ、俺の邪魔をするところ、俺の休みを潰すところ、うるさい」

「まずじゃなくね、全部じゃね」

「自覚があるなら今すぐ直せ」

「つまり今すぐ帰れと」

「その通りだ」

「嫌だ」

「…端から直るなんて思ってねぇよ」


直す気も無いのに何の為に聞いたんだ。そう聞いてもどうせ今の彼女なら“別に”と返ってくるだけなのだろうと思い、口にはしなかった。いつも煩い分、黙り込む彼女はやけに静かに感じられる。言い過ぎただろうか…?
不安になる俺には目もくれず、彼女は相変わらず口を尖らせてソファーに沈んでいる。どうやら真剣に悩んでいるらしい。個人的にはサボり癖を直してくれるに越した事はないから万々歳なのだが、今の彼女は見るに堪えない。少しだけ彼女の様子を見てから、俺は筆を止めないままぽつり、と呟いた。


「だが、他の隊じゃなく、真っ先にここに来た事だけは褒めてやってもいいかもな」


ガバッと勢い良く起き上がると目を見開いてこちらを見る名前。今までのが嘘のように生きた目をしている。
真っ直ぐに見つめられる目に柄にもなく動揺して、思わず目を逸らしてしまった。くそ、照れる。自分でも顔が赤いのが分かる。
平常心を装ったまま筆を滑らせていれば、前方で大きな音がして反射で顔を上げた。目の前には彼女の姿。驚いてうわ、と小さく声を上げればいつも通り楽しそうな彼女の表情が目に映った。


「来てよかった」

「……は?」

「あたし、来てよかった!また遊びに来るから!」

「おい、ちょ、おま」


じゃあね!と元気よく歩みだしたと思えば嵐のように去っていく名前の姿が見える。一瞬のことすぎて何が起こったのか理解するのに時間がかかった。アイツ…また来るって言った。しかも“遊びに”。
へこんでたかと思って心配してやれば調子に乗りやがって…


「あンのサボり魔ァ…!」


名前の去った執務室の中、俺は1人筆を握りしめてこのやるせない気持ちを叫ぶしか出来なかった。
















(今度きたら絶対文句言ってやる)

























100419
久々日番谷さんです^p^ギャグ落ちにしたかったけど着地失敗でした。難しい。
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