過去ログ | ナノ






「名前」

「なにー?」


いつも通りソファーに寝転んでいる彼女に声をかけると、またいつも通りに気の抜けた返事が返ってくる。俺は意を決して席を立った。


このままでいいんですか?


松本に言われた言葉。いつまでもこの調子で、いつまでもこの距離で、いつまでも名前が余裕で俺が不利で、これでいいのか?いつまでこの曖昧な関係を続けていくのか、考えた事も無かったが気付くと気になって仕方なかった。
とは言っても彼女はこんな感じに俺には気を許しっぱなしで、既に男と見られているかさえ不明である。告白紛いな事を言われた事も何度かあるが、それが真実かは定かではない。所詮サボり魔の名前だ、嘘か本当か分からない事ばかりだった。


それを逆手に取ってみてはどうです?


気を許した者の特権。松本はそれを俺に伝授してそのまま去って行った。仕事をサボられるのは不本意だが、このままでははっきりしないのは俺も嫌だ。だから今日こそは、少しぐらい勇気を出して。


「うわ、なにっ何でそこに居んの」

「別に少しぐらい休んだっていいだろ、ここは俺の執務室だ」

「いや、そうだけど」


ソファーに寝転ぶ彼女の足側のスペースに座り込む。いつもはしない行動にあからさまに驚いた名前は身体を起こして少し俺との距離を取って真ん中辺りに座った。眉をひそめて横目でこちらを見てくる彼女。なんだ、俺が行動的なのがそんなに珍しいか。そりゃそうだよな、俺の性格上はやらない事だ、今日以外は。


「どうしたの冬獅郎?」

「別に」

「ふーん…」


疑ってる、凄い疑った目をしている。どちらかというと不安げというか、既に会話がいつもと違う。彼女らしくない雰囲気だ。なんか新鮮。
そんな呑気な事を考えながら、俺はらしくもなく調子に乗っていた。


「なぁ名前」

「…なに」

「お前さ」


俺が視線を向けると焦ったように顔を背ける名前。あ、混乱してる、なんで俺がこんな事してるのか追求しようとしているんだ。彼女の思考が手に取るように分かって少し笑えた。でもここで笑ってしまってはこれが冗談だとばれてしまう。それは避けたかった。せめて名前の本音が聞けるまで。


「うわっあの、ちょ、冬獅郎っ近いちかい」

「お前だっていつも近い」

「それは違うでしょっ」


そうか、彼女は攻められるのが苦手だから自分から攻めてくるのか。なんだか納得。いつもやられっぱなしだった俺がこんな事をして余裕でそんな事を考えて居られるなんて意外だった。でも実際の所誰でもそうなのかもしれない。だから彼女はいつも余裕そうに見えていたんだ。
四つん這いになって焦る彼女ににじり寄る。必死に俺から逃げようと後ろに手をつく名前だったが、生憎ここは狭いソファーの上。逃げるにも限界があった。逃げられる限界まで来ると焦りが増したのか俺の肩を突き放す名前。でもそれさえ掴み返して見せたりして。自分にもこんな事が出来てしまうのかと内心驚いていた。ひじ掛けに頭を乗せて上を向く彼女の顔は赤くて不安でいっぱいで、バカらしくも可愛い、とか思ってしまった。そこで気付く、ああ、俺って名前の事が、


「な、冬獅郎っ今日なんか変だよ、どうしたのさっ」

「別に、お前がはっきりしないからだろ」

「何がっ!」




「俺の事、どう思ってんだ?名前」




顔の横に手をつくと、目を見開いて俺を見る名前。口をつぐんで視線を反らそうとした顔を制するように止めると、必死に視線だけ反らそうと少しだけ俯いて、観念したように俺を押していた手を下ろした。


「あたしは…」

「こっち見て言えよ、折角だから」

「……あたしは、…―――」


恥じらうようにこちらを見て彼女が口を開いた瞬間、

バタン、と勢い良く開いた扉。その大きな驚いてそちらを見ると酒瓶を片手に持った松本がこちらを見て立っていた。


「――――…何してるんですか、隊長」

「・・・・・あ、」

「いや、あの姉様っ…これはその」

「隊長の破廉恥ー!!昼間っから名前の事をそんなー!!」

「ちょっ姉様っ!何処に行くの!」

「待て松本!勘違いだ!戻ってこいッ!!」


あからさまに勘違いをした松本は酒瓶を振り回しながらまた何処かへ去っていってしまった。嗚呼、これは言い触らされる。絶望的な現実を突き付けられてア然とするが、松本をどうにかするその前に俺は重大な問題を抱えていたことに気が付いた。


「あの、冬獅郎」

「・・・・ああ、・・」


さっきまでの恥じらいは何処に行ったのか。いつも通りのやる気のない表情への戻った名前が俺を蔑みの目で見ていた。遡る脳内。…………そういや俺人生で1番バカな事をした気がする…
取り敢えずは彼女の上から退けて、お互いソファーに座った。微妙な距離を取る名前。嫌われたか?これから露骨に避けられたら一体どうすればいい?曖昧な不安が沢山ありすぎて胸が痛くなった。


「…名前、さっきのは」

「何今更びくびくしてんの冬獅郎、さっきの威勢はどうした?」

「だからさっきのは」

「…いいよ、気にしてない」


ふわりと投げられた言葉にふと名前を見ると、少しだけ頬を赤らめて眉を下げて笑っていた。あ、いつもの名前だ。そう思うのに、俺の心の中はいつもと違う気がした。


「ちょっとびっくりしたけど、あんな冬獅郎もいいかな!」

「なんで余裕なんだよお前」

「好きだよ冬獅郎」

「うるせぇ!」
















(どんな事があっても、君は君で、俺は俺なんだとひそかに思ったりして)

























100221
長いwwwwwwwwリな様リクの「ドS冬獅郎」です^p^;我の全力はこの程度でしたすみません。頑張ろうと思ったらなんか凄く長くwwwこのヒロインをどうしても捨てられない私(^^;こんなんでよかったんだろうか…
リクありがとうございました!
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