過去ログ | ナノ
「現世じゃ逆チョコが流行ってるらしいよ」
「何だよそれ」
・・・・しまった。
咄嗟にそう思った時にはもう遅かった。俺の意地っ張りは既に発動していて、机の中に忍ばせておいたチョコは出る機会を失った。期待の眼差しで俺を見てくる名前、やはり彼女は情報が早い。現世に出向いた訳でもないのに情報をこんなにも早く仕入れてくるとは、一体何処から知り得ているのだろうか。甚だ疑問である。
たまたま松本から聞いた事をらしくもなく行動に移してしまった自分のミス。先手必勝もどうやら俺と名前の性格には通用しないらしかった。
「ねぇ冬獅郎ー」
「言ったってねぇぞそんなもん」
「やっぱりかーそうだよね冬獅郎だもんねー」
つまらなそうに口を尖らせながらソファーに寝転びながら彼女は厭味ったらしく俺に言った。なんだか微妙な心境である。少し考えれば彼女がねだってくる事ぐらい予測はついたのにそれを考えもしなかった自分と、実際は用意してあるのに、俺は一向に渡そうとしていないこの状況は今までに体験した事もない事。
現世ではチョコを渡すらしいが、残念ながらそれを探し出す余裕はなく、だからといって丁度いい甘味も思い付かなかった俺は、彼女に似合うように髪飾りを買ってきていた。今思えば何故自分はプレゼントなんか用意してしまったのだろう、そんな後悔ばかりだ。
「ねぇ冬獅郎」
「………何だよ」
「引き出し、開けてみてよ」
「なんで」
「いいから。」
いきなり言われた言葉に心臓が飛び出すぐらいに動揺してしまう。もしや彼女はコレの事を知っている…?そんなはずはない、彼女がそんなに勘がいいはずはない。ましてや俺さえこんな状況になる事を予測出来て居なかったのだから尚更だ。ソファーの背もたれに腕を乗せて椅子の座り方とは逆になって俺に言う名前。いかにも余裕そうでムカついた。
「嫌だ」
「なんでよ、なんかやましいもんでも入ってるの?……まさか冬獅郎がそんな」
「何なんだその目。腹立つな」
「じゃあ開けてよ」
「嫌だっつってんだろ」
「………」
「だからその目をやめろ!」
蔑むような視線を送り続ける彼女を見ながら、俺は内心折れそうになった。あまりにも自分が惨め過ぎて、穴があったら入りたい。そのまま埋めてもらっても構わないとさえ思った。引き出しに付いた金具に手をかけそうになって手を止める。今このまま開けてプレゼントに気付かれたら、またバカにされるんだろうな。嗚呼、またいつもの繰り返しか。俺も学ばないな、いや、彼女が読めないだけか。そんな事を考えていると、彼女はいきなり立ち上がり俺を見て言った。
「そんなに嫌ならいいや、あたしに強制する権利は無いからね」
「………は?」
「きっとあたしが居なくなったら冬獅郎はすぐそこ開けると思うから、それでいいや」
そう言ってくるりと振り向いた彼女。俺はその姿を見てア然とするしかなかった。
「お前、それ!」
「じゃあね冬獅郎!また遊びにくる!」
彼女の髪にはキラキラと輝く髪飾り。俺が買ってきていたものだった。アイツ、いつの間に…
何事も無かったように手を振りながら室外へと消えてゆく名前の背中を見ながら、俺は何も言えずに呆然とするしかなかった。いつもなら「遊びに来るな」ぐらい言ってやるのに。まるで嵐が去ったような静けさだった。
「…何なんだ、アイツ…」
いつも彼女にはしてやられてばかりだ。本当に腹が立つ。
それにしても彼女はいつの間にあれを取って行ったのだろう。さっき引き出しを見た時は合ったのに…
「・・・・あ゛」
気になって手をかけた時にはもう彼女の策略にはまってしまっていた。引き出しの中にはラッピングされた小箱。中身は小さなハート型のチョコにすり代わっていた。その上には「残念賞 by名前」なんてふざけた手紙も添えられていて、俺は彼女からのチョコをかじりながら、またしても彼女に負けたのかと実感する事となった。
「もう来るんじゃねぇよ、腹立つな」
甘すぎんだよ、バーカ。
(それがチョコなのか、俺なのかは分からないけれど、自然と嫌では無かった)
100219
みゃーさんリクの「逆チョコ」ネタでした。ちょwww考えてみればもうチョコじゃない件^p^ゴメンみゃーさん。でも久々に更新出来てよかったっす。ありがとでした(^O^)