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人が憧れる物語というものは大体ヒーローかヒロインが居て、そのどちらかが世界の中心になっていろんな登場人物が泣いたり笑ったり、時には生きたり死んだりするもので 一般的な少年少女はそのヒーローやらヒロインに憧れるという青春を通り抜けるものだ。そしてそんな過去を振り返って「あーあ、」と見ないふりをする時期を過ぎると今度は「そんなこともあった」なんて笑う。よくある話。憧れなんてそんなもの。大体の大人はヒーローかヒロインになりたかった過去を持つ。
だから彼女もそんな、ヒロインになりたかった人だ。世界の中心に憧れた人。自覚はないんだろうけど。


「1度決めたら変えたりしたくないの」


1度口にしたことを撤回するような真似は絶対にしなかった、それがよくても悪くても。たまにそれがただの頑固になってしまってから回ることもあったけど、それでも彼女は自分の在り方を変えなかった。
「1度口にしたことを変えない」。ヒロインは強くて、気高くて明るくて、意思を曲げない。だから彼女もそういうヒロインになろうとした。1度道を決めたのだからそれを捨て去る道は選ぼうとはしない。彼女は真っ直ぐであることを正しいと信じていた。


「そんなんじゃいつか息詰まる」

「そうかもしれないけど、嘘つくようなことしたくない」

「嘘じゃないよ、方向転換」

「嘘ついてるみたいで嫌なの」


俺の周りには彼女に限らずヒロインになりたかった奴が集まりやすい。なんだろう、俺にくっ付いていれば物語性のある人生を送れる気でもするんだろうか。そりゃ、現実味の無い仕事をしてる自覚はあるし、散々言われりゃ自分が変わった人間であることくらい分かっているけど、そういう俺にすり寄って来る憧れを拗らせて自分は悲劇の中にいるように錯覚する気取りな輩とは違って、彼女は決して“悲劇の”ヒロインでは居たがらなかった。聡明で真っ直ぐな女の子。うーん、月に代わってお仕置きするような感じ?ちょっと古いかも。
でも、そんな彼女だから俺は側に居ても嫌だとは思わない。所詮ヒロイン気取りの奴らは自分に酔ってるだけだしそれくらいなら何処にでも居て見飽きたけど、知らない間に俺の思考の中心が彼女になっていたことは明白で、彼女のその賢明さが何処まで続くのか気になって、何処までも追求したくなる。一生見ても見飽きないんだろうなぁ、彼女はいつになったら折れるんだろう、諦めてしまうんだろう、ともふと思ったりして。そんなちょっと歪んだ事を言うから彼女は今、俺の前に立っているんだろうなぁ。


「行かせない」


正義感が強い彼女が俺の仕事を知って良い印象を持つわけがないとは思っていたけど、そう頑なに阻まれては困ってしまう。しかもなんて言うか、毎度毎度比較してしまうのは少し申し訳ないけど、やっぱ他の女とは違う。同情じゃなく純粋な愛情からの言葉だという事は何の証拠もないけど確信していた。彼女の言葉は、刺さるんだ。
彼女が俺を止めてどうしたいのかは分からない。多分彼女は自分の正しいと思った事をやっているだけなのだから、多分このままじゃ俺が真人間に戻れなくなる、とか考えてるんだと思う。戻れなくなる?残念だけどもう戻れないよ。君がどう足掻いても、俺はもう普通の人間が普通に想像するような生活には戻れないんだよ。


「俺をそんなに止めたかったら、帰ってくるまでに必殺技でも考えておいて」


ドアの向こうで俺を止められなかった彼女が顔を歪めているのが想像出来る。でも、ごめんね。俺は君の仲間じゃなく、敵キャラの方が性に合ってるんだ。だって、味方同士がくっ付くより恋人が実は黒幕でした、の方が美味しいでしょ?


「ヒロインは物語性も考えなくちゃ」








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(無自覚の正義で僕を殺して)
























120813
そして悲劇のヒロインに堕ちて行くんですよみんな

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