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寒…と、駅を出て一言。当たり前でしょ、と言うと彼はムスッと少しだけ表情を変えた。彼と一緒にここに連れてくるのは初めてだった。何分遠いし、時間も合わなし、まず来る理由がなかった。東京では目にすることの少ない雪がはらはらと降る駅前を寒がりながら歩く彼はやっぱりまたあの黒コートで、なんだか気が抜けた。
そういえば聞いたところによると彼はこの土地が初めてではないはずだ。なんだっけ…仕事でこっちに来た時、そう、刺された時だ。あたしの地元に彼が行くということでさして心配はしていなかったのに(最早どこに行っても心配はしていなかったけど)、そしたらどうだ。珍しく電話なんかかけてきたと思ったら「刺された」だなんて。心配を通り越して最早呆れたのをよく覚えている。ロクでもない仕事ばかりしているからそうなるんだ。いくらここが田舎だって言っても駅前にはそれなりに人がいるし、いきなり刺されちゃパニックになるに決まっているのに。平凡過ぎるこの土地じゃすぐ新聞にも載るしニュースにも流れちゃうんだから、仕事上も困るだろうが。まぁ、その平凡に慣れすぎたこの土地の住人は彼をニュースを見ても「怖いなぁ」とか「名前が珍しいなぁ」とかその程度の感心しか抱かないしすぐ忘れるだろうけど。
結局、あたしが「冷たい」なんて言われてしまうのも、この雪に包まれた冷たい土地で長く過ごして染み付いてしまった習慣なのかもしれない。田舎の田舎による田舎の為の世間、平凡の中での生活を過ごしてきたあたしには最早彼の特殊さは不思議とか異常とかそういうのを通り過ぎて「普通」だった。そう考えると、東京の人から見たらあたしの方が異常なのかもしれないけど。だから彼はあたしに近づいたのかもしれない。いろいろな偶然が重なって、彼は今またこの地に来ている。今度は隣にあたしを連れて。
東京みたいに便利ではないので、交通手段はもっぱら車か徒歩、時々バス。時々自転車。車なんてあるはずもなく流石に我が家まで徒歩はキツイし、自転車もない。消去法をするまでもなく駅前のバス停に並ぶと、珍しく“粉雪”が降っていた。歌で有名だけど、雪国出身のあたしの中で粉雪なんて最早幻想でしかなかった。そもそもここは粉雪が降る程度では済まない。一晩眠ればどっさり1mくらい積もるのなんかザラで、朝も夜も雪かきが日課だ。地吹雪体験ツアーなんてものがあるけど、そんなの学校に歩いて登校すれば無料で体験出来てしまうから、地元民からすればそのツアーになんの需要があるのかさえ理解不能だった。
…ふと、地元の思い出を無意識に振り返ってしまっている自分に気づく。相変わらず地元が好きでしょうがないことを思い知らされて思わず苦笑した。


「どしたの」

「なーんか、懐かしくて」

「いつぶり?」

「去年の年末」


さして昔ではないけど、やっぱり都会には慣れないのか地元の空気が気分をしみじみとさせる。なんだ、1年しかたってないじゃん、なんて笑われたけど、あたしにとっては1年がとてつもなく長く感じられるのだ。
やっとあなたと来れたよ、まさかこんな真冬に来るとは思ってなかったけど、これもこれでいいんじゃないかな。ぶっちゃけこの土地は冬しか特徴ないし、夏にきてもただの田舎だし。冬にきてもただ雪の多い田舎だけど。


「何にやけてんの?」

「別に、変な感じだなって。臨也がここに居るの」

「誰の為だよ」

「緊張してんの?」

「まさか。寒いだけだよ」

「嘘ばっかり」


バスが到着する。あたし達の前で自然に止まると、特有のガス抜きみたいな音を立ててドアが開いた。彼は何も言わずに両手を擦ってバスに乗り込む。整理券を2枚とって振り向くとあたしに1枚差し出した。暖かい空気が外に出ていくの感じながら、あたし差し出された整理券に手を伸ばしながらバスに乗った。


「どこまで?」

「終点の2個前」

「…緊張する」

「やっぱり」


バスの中は暖かい空気で満たされている。後ろ側の2人掛けの席に座りながら、窓の外の雪景色と珍しく緊張している彼の横顔を見て少し楽しくなった。あなたと出会えてよかったな、なんて、思った。










(今から、ご報告にいきます。)
























121217
地元のゆっくり感出したいなと思ったらただ本トのじもとーくになったから切ない。折原が刺されたのは青森だと思ってる。地元。
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