DRRR | ナノ
「帰れなくなったの?」
振り返ると黒ずくめの見慣れた男がほくそ笑んでいた。もう来ない電車を待ち続けていたあたしを面白がるようにコツコツと靴音を立てて近づいてくるそれを一瞬確認する。腹が立つことを言われる事くらい分かりきっているのでしれっと顔を背けると、冷たいなぁ、とそれはまた笑った。
「終電、なくなったんでしょ?」
「…」
「どうすんの?ここで立っててさ」
「関係ないでしょ」
出来るだけ短く返すとそいつはわざとらしく肩をすくめる。一挙一動腹が立つ。一体何をしにきたんだ。どうせあたしが池袋に来た時点でこいつはあたしの居場所くらいすぐ把握できてしまう事など知っていたけれど。それでも出てきてしまった。もしかしたら、なんて淡すぎて見えないくらいの希望に縋って。
「残念でした」
まるで残念さがない声色で言葉を投げる臨也。だめだ、聴いてはダメだ。聞いたら飲み込まれるんだこいつのペースに。何時の間にか気づかないうちにどろどろと、こいつの罠はすぐには抜け出せないようになっている。
再びコツコツと靴音を鳴らしながらやつは更に近づいてくる。ただそれだけなのに、焦燥が身体を突き抜ける。目を合わせないようにしたのが悪かった。やつの姿を確認できず、靴音でしか距離を確認出来ないのが逆にあたしを焦らせた。
立ち止まりすぐ隣で足音が止む。最早焦りを隠す事くらいしか出来なくなったあたしの肩に手をかけると、臨也はははっと軽く笑った。
「焦りすぎ、そんなに俺が怖い?」
なす術はない。あたしはただただ縋っていた希望を砕かれるのを待つだけだった。するりと首に手をかけると、臨也はそのままあたしの耳に口を寄せて髪が揺れるか揺れないかの小さな声で笑った。
「でもね、助けはこないよ」
「シズちゃんはもうこの街には居ないんだ」
運命なれのはて急行
(ここに来たのが運の尽き)
120803
臨也\('ω')/書けん
リハビリ月間