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暗闇にネオンや車の光が引っ切り無しに行き交う池袋の夜。廃ビルの上、慣れ親しんだその景色を背景に俺はケータイの液晶を見ていた。反対側には裏路地。表が栄えているが故に暗く、ある意味暗黒とも呼べる場所がそこには広がっていた。


「……出ないし」


いつものように仕事を終えて、屋上の縁に足をかけて座る。足元を人が歩くのを見ながら、俺は留守を告げるケータイのアナウンスに小さく悪態をついた。
3日前にあった、もう2年以上も連絡を取っていなかった名前からの突然の電話。不在着信が2件、1件目には留守電が入っていた。「もしもし、久しぶり」から始まる何の変哲もないただの日常会話。残っていた彼女の声は昔と変わらないように思え、楽しそうに話す彼女に懐かしささえ感じた。1分程度の通話の中で、彼女はよく笑った。


『あーぁ。次はいつ会えるのかな。何だか最近寂しくてさ、思わず電話しちゃった。ごめんね』


何を謝る事があるのだろうか。滅多に電話やメールをしてこなかった彼女らしい言い回しだった。着信には割と早く気付いてかけ直したつもりだったが、その時はもう出なかった。それから何度かけても答えは留守を告げるアナウンスだけ。あの留守電では変わった様子は読み取れなかったが、何かあったのろうか?まぁ、昔から気まぐれな彼女の事だから、特に何もないとは思う。そもそもこの関係だって元は彼女の気まぐれから始まったようなものだ。そう思いつつもそれに縋っているのは俺の方かもしれないが。
結局彼女の返事もないケータイをパタリと閉じ、また池袋の町を望む。この町のどこかに居るはずの名前。その姿を探すように。
不意に屋上のドアが勢いよく開いたかと思うと、そこにはサングラスをかけたバーテン服の男が立っていた。


「…やっぱりここに居たか」

「あれ、なんでこんな所にシズちゃんが?まさかストーカーとか」

「気色わりぃ、その名前で呼ぶんじゃねぇ」


いつもならこの程度茶化しただけで飛び掛かってくるが、今日は少し声を荒げただけだった。多少の違和感は感じるが、ぶっちゃけこの怪物に何があろうと俺には関係ない。


「池袋には2度と来るなって言っただろうが」

「仕方ないだろ?俺には俺の“仕事”があるんだから」

「どうせろくでもねぇ仕事だろうが」

「心外だなぁ。列記としたビジネスだよ」


余裕を見せて笑っても目の前の怪物は俯き加減で俺を睨むだけだった。


「…何で名前を1人にした」

「1人にしたっていうか元々頻繁に連絡してた訳じゃないし。彼女が面倒臭がりなのは君も知ってるだろ?」

「だからって2年も3年も音信不通なんて考えられるか」

「音信不通なんて言葉知ってるんだ?シズちゃんってもっと単純な言葉しか知らないっ思ってた。それとも、彼女から教えてもらったのかな」

「質問に答えろ」


あくまで冷静な口調で問われる。どうやら話さないと帰してはくれないようだ。俺は小さく溜息をついて仕方なしに口を開いた。


「本トはもっと早く連絡するつもりだった。ていうか電話が来るもっと前にメールしようと思ってたさ。でも少し渋っただけ。まだ彼女は俺が新宿に移ったのを知らないはずだし、どうせなら“記念日”に招待しようと思ったところなんだよ?ね。ちょっとカレシらしいでしょ」


わざわざこんな事を話すなんて俺も律儀なやつだ。しかも相手はシズちゃんなのに。思わず自分でくしょうしながらどんな低能な嘲りが飛んでくるのかと少し期待していると、少し間を開けて思いもよらない言葉が返ってきた。


「…それで?」

「?」

「そんなくだらない理由でお前はアイツに連絡してなかったのかよ」


地を這うようなその声は徐々に“怪物”に近付いていた。目の前で静かに苛立ちを見せるバーテン服の怒りの沸点は実に分かりやすい。


(だってシズちゃんも名前が好きなんだもんね)


彼らは小学校の時から幼なじみだから、多分シズちゃんの方がずっと昔から彼女が好きだったんだろう。でももうそんなことは関係ない。だってもう俺と彼女は恋人同士なんだから。


「お前、アイツの気持ち考えた事あんのか」

「何言ってんの?いきなりロマンチストになっちゃって気持ち悪い」

「留守電入ってたろ。その電話した後、アイツは俺にも電話してきたんだ。死にそうな声で泣きながらお前に会いたいってよ。まさかアイツの最期の言葉がお前の事になるとは俺も思ってなかった。今思い出しただけでも腹わた煮え繰り返りそうだ」

「最期とか何言ってんのシズちゃん、連絡したいならすればいいのに。何?俺達に遠慮してんの」

「茶化してんじゃねぇ!」


いきなり声を荒げて胸倉を掴んでくる怪物は、サングラスの奥でいつもの“苛立ち”ではなく、純粋な憎しみの炎を燃やしていた。


「アイツは連絡もねぇお前の事をずっと心配してたんだ!お前みたいなロクでもねぇクソノミ蟲野郎なんかを最期まで!」


暗闇に響く怒声。喧騒から切り離されたその声は池袋の町と空の間の空気を大きく震わせた。


「いや、だからシズちゃん何言って」

「お前こそふざけた事ぬかしてんじゃねぇよ!連絡したいならすればだと?バカにすんのもいい加減にしろよ!」




「死んだやつにどう連絡しろってんだよッ!!」










『―――…あ、もしもし?久しぶり臨也。番号変わってなくてよかった。へへ、ちょっと心配しちゃった。なんか電話とか慣れてないし緊張しちゃって。どうせアンタしか聞かないってのにね。最近調子どう?まぁアンタが調子悪いのなんか見たことないんだけど、よく考えてみたらあたしとアンタって高校の時くらいしか一緒に居なかったし、アンタの事は変な趣味の危ない人って事くらいしか知らないのかもしれないなぁ。そう思うとなんでアンタの事好きになったんだかわかんないけど。…うわ、今自分凄い恥ずかしい事言った…。…あーぁ。次はいつ会えるのかな。何だか最近寂しくてさ、話す事も考えてないのに思わず電話しちゃった。ごめんね。あ、そろそろ切れるかな…留守電って時間制限あるんだよね?それじゃ、元気でね。バイバイ…―――』


































110524
まさかの急展開過ぎてわろた^p^p^
5話完結のつもりだったけど6話になりそうです。やっぱり期間を空けるとgdgdになっちゃうなぁеωе
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